ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.227 )
- 日時: 2021/08/05 23:34
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: /48JlrDe)
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真子はぼんやりと自分の血を浴びた後、ふと気づいたかのように左手を右手にかざした。ふわりと白いような青いような不思議な光が帯びて、その光に吸い寄せられるように、ふよふよと細かな粒子のような純白の光源が現れた。それは次第に真子の右手に集まり、少しずつ少しずつ、真子の右手を形作った。真子が左手を小さく振ると、その動きに合わせて光は消滅し、光源も無くなった。その代わりとでも言おうか、真子の右手は元通りに治っておった。流石は真子じゃ。この程度の回復魔法は無詠唱で行えるのか。
魔法が正常に行われたかなど確認するまでもないとでも言うかのように、真子は何事も無かったかのように振舞った。いや、それが真子にとっては普通なのじゃろう。
おっと、悠長に分析している場合ではなかった。真子の手は離れたし、独の意識はあの男子に向いておる。逃げるなら今がチャンスじゃ。妾は暇潰しに命をかけるような愚か者ではない。遊びは勝ちも負けもほとんど意味を為さないのじゃ。
「花園君! 避けなさい!」
男子が言葉を繰り返した。
風魔法を使って移動速度を上昇させたらしい男子が瞬く間に至近距離に迫っていた。魔力そのものは黒いもやから逃れたことによりそこそこ回復しておる。元の姿に戻ったり真子や独を相手をしたりするには到底足りないが、今の状態であればこの男子一人くらいならばすぐにねじ伏せられる。
真子ならばともかく人間から逃げたというのは癪じゃ。妾は男子の剣を躱し男子の手に触れ、体内に含まれる水分を爆発させた。
ぱあんっ!
真子の手が破裂した時と同じような高い音が鳴り、男子の左手が消し飛んだ。体を消そうとしたのじゃが、まだ魔力がそこに至っておらんかったようじゃ。
「き、君は……」
男子の表情が驚愕に歪んだ。そして直後にキッと妾を睨み、怒りのままに吠える。
「真白君、何をしているんだ?!」
男子は妾が悪魔であるということに気づいていなかったようじゃ。なるほど、これは自己紹介をしておいた方が良さそうじゃ。向こうの方から女子と男子、真子や独とよく行動を共にしていたややくすんだ淡い桃の髪の少女と、頭の頂点から毛先にかけて、赤に近い橙から黄と独特な髪色を持った少年が来た。その二人への自己紹介も兼ねて。
調子の戻ってきた妾は扇子を広げ、体を上昇させた。口元を扇子で隠し、肌の所々に鱗を顕にする。
「申し遅れた。妾は『七つの大罪』がひとり、『嫉妬の大罪の悪魔〔レヴィアタン〕』。縁あって今はこの『真白』とやらの体に憑依しておる。これ以上の説明は不要であろう? 妾は充分楽しんだ故、これで立ち去ることにする」
身体中に魔力を巡らせ、バキバキと音を鳴らし鱗が占める面積を増やす。
「さらばじゃ、人間。自らの役割も果たせん未熟者たちよ!」
真子は民を導いておらず、独は自身のあるべき姿を追求せず、あの二人はおそらく男子がこちらに来るのを食い止めていたのであろうが出来ておらず、そして男子──あの王族は、確か生徒会長を務めていたはずじゃ。学園の生徒が悪魔と契約しそして意思を殺されたことを今まで知らず、そして今も気づいておらん。
未熟者ばかりじゃ。この世界はもう、これ以上進化を遂げることは無いと言うのに、このままで良いのかのう?
まあ、それは妾には関係の無いことよ。妾はこれまで通り、気ままな生活を送る。
米粒同然と化した真子たちをはるか上空から見下ろし、妾は古巣へと飛び立った。
第三章・Mashiro's story【完】