ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.228 )
日時: 2021/08/07 11:07
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: Mj3lSPuT)

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 ボクの何がいけなかったの? わかっていたなら、教えてよ。知っていたんでしょう? ねえ。
 仕方ないじゃないか。ボクはこうすることしか出来なかったんだ。ボクはあの日──

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「姉ちゃん! 学園から便りが来てるよー」
 家の手紙受けに入っていたプリントを持って、リビングに居る姉ちゃんに渡した。
 姉ちゃんの、天使と見違う輝かしい金髪が、朝の爽やかな光に当てられてキラキラと光る。まるで光の精霊が祝福しているかのような神々しい光景は、八年ぶりに再び暮らし始めたばかりのボクの目にはまだ慣れない。
 そしてその輝きの中、不釣り合いとも呼べるほど虚ろな青と白の瞳が、ボクを見た。

「うん」

 姉ちゃんはボクからプリントを受け取ると、五秒後にボクに返した。
「朝日も、目を通しておいて」
「わかった」
 驚くことなんて何も無い。姉ちゃんは十歳の頃、千ページに及ぶ魔法専門書を一日で読破したことがある。始めこそ驚いていたものの、次第に姉ちゃんが様々な面において優れた、いわゆる『天才』であることを知り、なんとも思わなくなった。
 姉ちゃんは自身が優れていることを周囲に知らせたがらないが、ボクには今みたいに包み隠さず見せてくれる。それが嬉しくもあり、同時に姉ちゃんを周りに自慢出来ないのが時々悔しい。

 プリントの内容は、二週間バケガクを閉鎖する、というものだった。一週間ほど前にバケガクが所有する敷地内に存在すると建物のほとんどが崩壊するという事件があり、それから生徒は自宅待機をするよう知らされ、ようやくこれからどうするかなどの詳細が決まったらしい。
 なんでも、生徒会長である北国の王太子の左腕がその事件の中で失われたらしく、主に政治絡みや責任があるどうのこうのといった話でなかなか会議が速やかに行われなかったらしい。ただでさえバケガクというのは世界中から、平民から王族、さらには多種族の生徒が集まる学園なので各国の重役と話を進めなければならないので、こういった大規模な問題が起こると解決に時間がかかるらしい。
 これは同じクラスの、えーっと、友達もどきから聞いた話だ。こういう時、噂というものは距離や時間などお構い無しに広がるものなのだと再認識させられる。
 ……八年前、いや、九年前のあの事件も、あっという間に世界中に浸透したなあ。

「あ、そうだ! 姉ちゃん、これ」

 そう言いつつ、ボクは姉ちゃんに手紙を渡した。白い封筒にバケガクのエンブレムを模した封蝋が押された手紙だ。表には『花園日向様』と記されている。
「じゃあ朝ごはんの用意するね」
「うん」

 本人は何も言ってくれないけれど、あの事件に姉ちゃんは直接関わっている。ボクはそれを知っている。多分内容は当事者から直接話を聞きたいだとか、そんなところだろうか。もしそうだとしたら、アイツも……。

『大丈夫』

 ボクは口だけを動かして、心臓が激しく脈を刻む前に、狂う感情を収めた。

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