ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.230 )
日時: 2021/08/08 09:03
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: /GGwJ7ib)

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 あれから急いで支度をして、ボクはバケガクに向かっていた。姉ちゃんの飛行速度は速いから、ボクが追いつくことは無いだろう。

「ん?」

 ボクは一度止まった。簡易な柵でバケガクの所有する敷地がぐるりと囲われていたのだ。柵の向こうには、無惨に破壊し尽くされた森の木々と、ぼんやりと遠くに見える崩壊し放置された元々壁であったり屋根であったりした瓦礫があった。
 柵の前には点々と見張りらしき人が立っている。そのほとんどが屈強な男で、それ以外でも、新聞でたまに見かけるどこかの国の騎士団に所属する間違えても下っ端ではない面々が揃っていた。上空には見るからに魔法により生み出された鳥の形をした仮想生物(本当の生物ではない、形と役割だけを持った魔力の塊。役割は形作る魔力によって異なる)が大量に飛び交っている。あれで情報疎通を行っているようだ。

「……ふうん」

 随分と大層な守りだ。何かあるのは間違いない。
 まあそれは後でわかるだろうと自分の心に区切りをつけて、ボクは前進を再開した。
 ボクは今、ジョーカーに渡された無色の魔法石を持っている。これは術者が自分の魔力を込めて用途を定めるタイプのもので、仮想生物とよく似ている。仮想生物はその形から作らなければならず、その上特定の魔力のみで作る必要がある。魔法石は元から存在する物に魔力を込めるだけでいいが、その魔法石が耐えられる量・種類の魔力を込める必要がある。どちらが難易度が高いのかと言われると悩ましいところで、「時と場合による」が正当だろう。

 ブレザーの内ポケットの中から、安っぽいビーズのような大きさと形の魔法石を取り出した。手のひらに乗せてみると、確かに、微かにではあるが魔力を感じる。これを受け取った当初は何も感じなかったが、最近になってようやく魔力を感じ取る力が着いてきた。

『知ってるかい? この地上に住む魔法使いと、魔法使いを超越した存在が使う魔法の違い』

 ジョーカーは、姉ちゃんを相手に行動するなら直接的な魔法の使い方だけではなく魔法や魔力の根本の仕組みなんかも学んでおいた方がいいと、ボクが聞いてもいないことをペラペラと喋る時がある。

『え、わからない? 魔法の量を操るか、魔法の質を操るか、だよー。魔法の質を操ることが出来たらそれはもう、神様の域だよねぇ。
 まあ、それが出来ないカミサマも一人……いや、これはまだ早いね。機会があれば話してあげるよぉ』

 それにしても、この守りの中誰にも気付かれずに入れるだなんて、ね。自分で大口叩くだけあるや。
 この魔法石には、【意識阻害】【百里眼】【聴域拡大】の三つの魔力が込められている。【意識阻害】は今のように自分の存在を周りに認知されない力。【百里眼】は【千里眼】をいじったもので、一キロメートル範囲内であれば自由に視界を操作できる力。【聴域拡大】は視界に収まる距離、正確には意識的に目に入れてる範囲の音を拾える力。三つもの魔力、しかもこの大人数に通用する魔力にこんなちっちゃな石が耐えているのかと思うと、半ば信じ難い心境に駆られる。

『見て分かると思うけど、ボクはかなりの手練だからねぇ。そんじょそこらの奴にはその石の効果をガード出来ないよぉ。まあ万が一バレても【意識阻害】は誰でも使えるような初歩的な魔法だし、他の二つは正式に世に認知されてないから問題無し。だいじょぶだいじょぶ。
 あ、でも、流石に日向ちゃんとかりゅーくんとかは長時間は無理だよ? あー、りゅーくんは大丈夫かな? あまり彼のこと知らないんだよねぇ。ま、よろしくー』

 この魔法石は何かと便利に使える。ジョーカーの手を借りているという事実は癪だけど、今回もお世話になるだろうな。

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