ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.231 )
- 日時: 2021/08/08 21:30
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: a0p/ia.h)
4
【スキル・魔力探知・波動パターン識別・発動】
見渡す限り瓦礫、瓦礫、瓦礫。始めは目星を付けて探していたものの、痺れを切らしてスキルを使うことにした。
ボクの使うこのスキルは一般的なものとは少し違う。本来の【魔力探知】は自分の魔力を周囲に満たし、他者の魔力の波動を感じ取ることで『何処に何がいるのか』を把握するもので、特定の人物を探すに至るまではかなりレベルを上げなければならない。だけどボクのスキル【魔力探知・波動パターン識別】は『自分が記憶した魔力の波動パターン』を探ることにより、『特定の一人』を見つけ出すことが出来る。ただしこれは裏を返せば一人一人のパターンを完璧に記憶しなければ使えない裏技なので、ボクは姉ちゃんを探すことにしか使えない。
意識を『一人一人が放つ魔力』に集中させるために、ボクは目を閉じた。この時に言う魔力というのは『魔法を使うために世界にアクセスする力』ではなく『精霊を寄せつける力』のことで、これは魔法を使えない種族にも備わっている。これはどうしてかというと、生物であろうと無生物であろうとこの世に存在する全てのものは創造神の創造物であるから、創造神の生み出した精霊の庇護下にあるんだとか。
ちなみにこの魔力は質とか量とか、強いとか弱いとかはなく、ただ波動のパターンが人によって違うというだけらしい。しかしそのパターンを覚えるのは至難の業で、それは人が寄せつける精霊の種類は数千万に及ぶためだ。故に複数人のパターンを覚えようとすると情報過多で頭がショートしてしまう。
でも、姉ちゃんなら。姉ちゃんなら、色んな人のパターンを覚えていたりするのかな。このスキルを教えてくれたのも姉ちゃんだったし。
こういったスキルを発動するのに使うのも、この魔力だ。ボクは魔力を『満たす』のではなく全域に『飛ばし』、数多の波動パターンの中から姉ちゃんのものを探し始めた。
本来のものであれば魔力は『触覚』として扱うのだが、ボクの場合は『視覚』として扱う。感覚的に探すといった面では共通しているので具体的にこの違いを説明するのは難しい。姉ちゃんは「意識の違い」と言っていた。そんなことできちんと発動するのかと、昔のボクは思ったのだが、杞憂だった。
本来のスキルは自分よりもレベルの高い人には発動したことを気付かれてしまうことが多いのだが、ボクの使うスキルだと気付かれにくい。これが何故かと言うと、『触覚』だと触られた感覚がして気付きやすいけど、『視覚』だと触られるよりかは気付きにくい、らしい。しかも凝視するわけでなくサラッと見て回るだけなので、余計に分かりにくいんだとか。
【魔力探知】は『視る』数が多いと情報の量に頭が耐え切れなくなるのでかなりの経験を積む必要があり、実際に使えるようになるにはレベルは少なくとも5に達していないと使えない。しかし【魔力探知・波動パターン識別】は違う。数はあまり問題とせず、ただ目的の波動パターンを探せばいい。
「……いた」
かつてのバケガク本館よりも敷地の奥にある図書館の中に、姉ちゃんはいる。そうか、図書館や特別倉庫なんかは無事なんだっけ。確か重要な物が保管されている場所には特別な結界が張られているらしいから、そのお陰で?
噂だと、光魔法の使い手が魔法障壁を張ったって聞いたけど。結界は確かに今の技術じゃ再現出来ないほど強力だけど、古代の魔法を用いて張られたものだから、同じ古代の存在である悪魔、しかも『大罪の悪魔』相手だといくら結界でももたないからと周りの「危険だ」という警告を無視した男子生徒がいるらしい。
その時、水柱を大量に出現させた術者が大罪の悪魔の契約者だとは分かっていなかった。真白が誰かに話していない限り、戦闘になっていた場所にいた姉ちゃんと笹木野龍馬と学園長と真白の四人、そして真白をけしかけたボクくらいしか、バケガク内であの魔法が大罪の悪魔の魔力によるものだということを知る者はいなかったはずだ。
つまりその男子生徒は、魔力から術者を特定したということ。そんなことが出来て、かつ大罪の悪魔の力に対抗する魔法障壁を展開できる奴なんて──おそらく、東蘭。あいつならそれが出来るんだろう。あいつは同じ天陽族ということもあって幼い頃から色んな噂が流れてきた。一族きっての才児だとか神童だとか、かと思えば一族の力【解呪】を操れずに落ちぶれたとか。それでもあいつの力はとにかく強く、気性に合っている魔法であれば制御も完璧に行えるらしい。
「……」
『大丈夫』
ボクは大丈夫だ。ボクは姉ちゃんさえいればいい。
そうだろう、ボク?
5 >>232