ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.232 )
- 日時: 2021/08/09 11:08
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: a0p/ia.h)
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ボクは正門の上をほうきで通ると、人影の少ないところで降りた。【意識阻害】はあくまで他者の意識を自分に向けにくくするだけで、自分自身が透明になったり存在そのものが無くなったりする訳では無い。歩けば足音が鳴るし、魔力の流れも感知される。
こうした守りに当てられる人材は五感や魔法感覚に限らず色んな感覚が研ぎ澄まされていることが予想される。確かにボクは動けば何かしらの音を鳴らす。音なく長距離を移動出来るような技術は備わっていない。けれど意識して気をつける程度なら出来る。ほうきで移動すると嫌でも魔力が流れてしまう。ボクが見張りよりも圧倒的に経験や技術が劣っている以上、こうした場面では自分自身の体で、魔法やスキルなしで動いた方がいいのだ。
ほうきを『アイテムボックス』にしまい先に進む。瓦礫は大きいものも多く、また、さっきの柵を越えて侵入してくるような輩はいないだろうと想定されているのか、数値的な人数はそこそこあるものの、配置としては一人一人の間隔が大きく、人目を避けることは容易だった。ただし見つかれば仮想生物の鳥を伝って一気に情報が拡散されるだろうから、油断は出来ない。
うーん。一応制服で来たけど、動きやすい格好の方が良かったかなあ? そういえばボクって金髪で目立つしなー。帽子くらい持ってきても良かったかも。
まあ今更後悔しても遅い。どうせ一旦家に戻るなんて出来ないんだし、頑張ろう。
「わあ、蝶がいる!」
えっ?!
「ぅ」
ボクは驚きのあまり声を出しそうになり、慌てて両手で口を押さえた。
は? 誰だ? 全然気配を感じなかった。音だって聞こえなかったし、なによりさっきまで周りには誰もいなかったじゃないか!
「あれ、これって仮想生物かー。侵入者を見つけるためのものかな? そっか、仮想生物って基本的に一つの命令しか下せないもんね。だから見張り用は情報伝達用とは別に用意しないといけないんだね」
ボクとそんなに年の変わらない女の子の声だった。元気が良くて姉ちゃんとは真逆のタイプ。なのにどうしてか不快にはならない、不思議な声だ。
「ああ、行っちゃった。頑張ってねー!」
ボクは物陰からそっと様子を伺った。女の子は向こうを向いていて顔は見えないが、ボクはひと目でそれが誰なのかわかった。
淡い、少し灰色の混ざったような桜色の髪──スナタだ。
なんであんな独り言を言ってるんだろう。癖なのか?
……ボクに見張り用の仮想生物がいることを教えたのだろうか。そんな、まさかね。
でも、ボクはあの蝶に気付いていなかった。ボクの瞳と同じ色をした萩色の蝶。見張りなだけありボクと同じ【意識阻害】を掛けられているようだ。効力はボクのものよりは劣るがそれなりに強い。認識出来れば次からは見えるようにはなるが、今のことがなければ気付かなかったかも。
まて。ということはスナタは蝶の【意識阻害】を破ったのか?
予想外だった。姉ちゃんのそばに居る三人の中で唯一一般人の平均並みの魔力や知能、そして身体能力を持った、良くも悪くも『普通』だったから、警戒対象から除外していたのだけれど。
一応ボクは昔から優秀だった。多分じいちゃんの血を素直に受け継いだのだと思う。新入生だからIVグループだけど、来年度からはⅢグループに昇級するだろうと先生にも言われたし。
なのに、そんなボクでも分からなかった蝶をスナタは気付いたのか? ボクはIVグループでスナタはⅢグループ。でもそれは在籍日数の違いじゃないのか?
「さーて、早く行かないと。多分わたしが最後だろうしね。学園長は何するつもりなのかな? まあ、大体検討は着くけど」
認めたくはないが、なんとなくスナタはボクにも気付いている気がする。でも、どうして? 媒体を通してではあるがジョーカーの魔法だぞ? 姉ちゃんとは違ってスナタは本当に魔力が一般平均くらいしかないからⅢグループなんだろうし、ジョーカーの魔法を破れるとは到底思えないんだけど。
ジョーカーなら何か知っているのかな。また聞いてみよう。
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