ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.237 )
- 日時: 2021/08/13 18:07
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: XyK12djH)
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「諸君、よく集まってくれたね。礼を言うよ」
中はあまり豪奢な雰囲気ではなくむしろ質素で落ち着いた印象を受けた。広いといえば広いが『個室』と称するに相応しい程度には小さい。ただし日光を遮るためか窓が一枚もない。ちょっとした興味で壁の中に入ってみると、かなり分厚かった。
姉ちゃんたちは椅子や机を脇に避け、立って対峙していた。
「花園君。君が真白君と戦う時、私が何とお願いしたのか覚えているかい?」
「真白の身柄の確保、バケガクの修復」
学園長の言葉に間髪入れず、姉ちゃんは即答した。へえ、そんなこと頼まれてたんだ。
「よくわかっているじゃないか。でも前者は果たしてくれなかったよね?」
「わかってる。ちゃんと修復はする」
「言い訳しないところが君らしいね」
バケガクの修復? どういうことだ? いや、姉ちゃんを疑うわけじゃないけど、バケガクというのはまずとてつもなく広大だ。建物の被害はというと、バケガク本館は全壊、バケガク別館の方は八割が破壊されて、それ以外にも食堂や森も尋常ではない有様だ。
「何を言い出すのかは薄々予想は着いていたけど、ねえ日向、大丈夫なの? そんなこと出来るの?」
スナタの言い分はもっともだ。姉ちゃんの力は知っているが、それでも不安になる。
姉ちゃんは淡々と言った。
「もちろんいつもみたいに余裕を持って行えることではない。でも失敗しないから、大丈夫」
「いや、そうじゃなくて、日向自身のことだよ! 魔法じゃなくて!」
「私?」
「だって今回の魔法って、【創造魔法】でしょ? いくら日向でも、今の体で最上級魔法をこんな広範囲に発動すれば、まず急激な魔力の減少による副作用とか、魔法の過剰行使による身体的な体の負担とか、色々あるじゃない。だって、日向がやるんでしょ?」
なんだろう。今のスナタの言葉が、なにか引っかかる。でも、それが何なのかわからない。違和感の正体が掴めない。
「平気。流石に終えたばかりだと動けないかもしれないけど、すぐに回復する」
「ほんと?」
「うん」
姉ちゃんとスナタの会話が一段落すると、学園長が言った。
「今回のことは四人全員に協力してもらうよ。
笹木野君と東君は、万が一花園君に何かあったときのために備えておいてほしい。
スナタ君は、変な魔法が入り込んでいないか確認してほしい。
出来るね?」
有無を言わさぬ声に、それぞれ反応した。
「黒と白じゃなくて、闇と光ってのが心配だけどな」
「それはもうどうしようもないだろ。黒も白もおれ達は操れないんだから」
「頑張る!」
その言葉に学園長は満足気に頷き、
ボクを見た。
え?
「じゃあそろそろ取り掛かろうか。人払いをしよう。スナタ君、悪いけど下に行って一人だけ馬に乗ってるデカい男に結界を発動させることを伝えてくれるかい?」
「わあああっ!!」
スナタが返事をする前に、ボクの体が宙に浮いた。違う、第一読書室の中に転送されたんだ。え、どうして?! なんでバレたんだよ、どうなってるんだ!?
体がぼんやりと白い光に包まれ、ゆっくりと床に降ろされた。けれど急なことに体が対応しきれず、がくんと膝を着いてしまう。
「じゃあ行ってきまーす!」
「よろしくね」
ボクが居ることに誰も不思議に考えることをせず、まるで始めからボクがここにいたかのように振る舞う。
え、なに、どういうこと?
「さて、花園君──紛らわしいな、朝日君。君のことだから日向君が何をするのか気になるだろう? 特等席を用意してあげるからさあおいで」
「え、は、わ、なんですか?!」
「いいからいいから。後で色々説明してあげるからさ」
学園長はボクを無理やり立たせ、背中を押した。助けを求めて姉ちゃんを見たけれど、姉ちゃんは何故だか辛そうな表情をしていて、そちらの方が気になった。なんだか疲れているような、しんどそうな雰囲気。ボクのことなんか見ないで、少し息を荒くしてぼんやりと何も無い空間を見つめている。「大丈夫か?」などと笹木野龍馬が心配そうに声を掛けている。
姉ちゃんに近付くなよ!
そう思うが学園長の力は案外強く、ボクは逆らうことが出来ずに第一読書室の外まで連れ出された。
「あの、何処に行くんですか?」
「ん? 特等席と言っただろう?」
だから、それが何処なのかと聞いているんだって!!
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