ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.238 )
日時: 2021/08/13 18:09
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: XyK12djH)

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 特等席、というのはつまり、『通達の塔』のことらしい。チャイムや緊急事態のアナウンスが流れる塔で、バケガク内に点々とある。ただ、『通達の塔』は立ち入り禁止で、内部がどうなっているのか、アナウンスの声が誰のものなのかは明らかにされていない。

 アナウンスといえば、今も鳴らされている。学園内に居る見張りの兵や少数の教師たちに向けて、大規模な魔法が行われることを知らせ、避難を促すアナウンスだ。

「あの、ボクがはいってもいいんですか?」
 塔の中にある長い螺旋階段を登りながら学園長に訊くと、学園長は笑った。
「だから『特等席』なんじゃないか。でも秘密だよ。学園長に贔屓されてるなんて言われたくないだろ?」
「そう、ですね」
「さあさあ着いたよ! ここが塔の最上部。今まで誰も見たことがない、訳では無いけれど、特別な人以外でここを見せるのは君が初めてだ」

 階段は天井まで続いていて、天井は手動で開けられるようになっていた。重そうな扉を不快音を奏でながら学園長は涼しい顔で開く。扉が開くごとに差し込む光が強くなっていく。

「おいで」
 学園長の声に従い、開いた扉をくぐると、そこには──

 二人の子供がいた。女なのか男なのかわからない。見た目の年はボクよりも少し幼いかな。見た目は瓜二つで、白い髪に白い瞳、白い肌に白い布を巻き付けた子と、それを黒くした子。
 ボクはまさかと思い白髪の子の額を見たが、水晶はない。〈呪われた民〉ではないのか。
「驚いたかい? 信じられないと思うけど、この二人は仮想生物だよ。各塔にそれぞれ置かれている」
「えっ!」
 この二人が仮想生物だって? 仮想生物というのは単なる魔力の塊で、鳥に見えたり蝶に見えたりしたとしても、それはただ形がそう見えるだけで、実際には生物ですらない。ただ役割を持っただけの道具に過ぎない。
 でも、この二人にはどう見ても髪と肌の区別が着く。目や鼻や口、耳や手足があるし、布を巻き付けただけとはいえ服を着ているじゃないか!

「これはこの学園の秘密の一つだ。詳しくは教えてあげられないけど、そうだね、この真っ白な子は白子、こっちの真っ黒な子は黒子って名前だよ」
 どうでもいいよ!

「代わりにこっちを教えてあげよう。ここはこんなに開放感があるけど、外からは何も無いように見えるんだ。強い結界が張られているからね。図書館よりも強くなっているんじゃないかな」
「強く、『なっている』?」

 ボクの問いに学園長は答えず、不敵に笑った。

 この場所は四方八方が見渡せる。四本の柱が円錐状の屋根を支えているだけで、他に視界を遮るものがないのだ。
「そろそろ準備をしててもらえるかい? もうすぐで全員移動が完了しそうだ」
『わかったわ』

 そう言って、姉ちゃんの契約精霊であるベルが学園長の懐から飛び出した。
「なんでベルがここにいるの?」
 ボクが尋ねると、ベルはふわりと微笑んだ。
『日向は学園長さんの合図を受け取れないから、代わりにわたしが貰うために着いてきたの。学園長さんが「良し」と言ったらスナタの所に確認しに行って、リュウ達の状態を確認して、それから日向のお手伝いをしに行くの』
「お手伝い?」
『それは内緒』
 ベルは両手の人差し指を交差させ、それを自分の口の前に持っていった。

「魔法陣の用意完了。学園の外界からの隔離も完了。さすがは魔導師部隊だね。仕事が早くて丁寧だ。仮想生物も消滅してる。
 もういいよ。私が確認すべきことは終わった。スナタ君のところへ」
『ありがとう』
 ベルはそう言って、金粉を散らしながら飛び立った。

「というわけで、私がするべきことは無くなったわけで、魔法が実行されるまでの間、暇が出来たわけだ」
 学園長はゆらりとボクを見た。
「どうして頑丈な守りであった学園に侵入したのか、じっくり話を聞かせてもらおうか」

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