ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.239 )
日時: 2021/08/14 11:12
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 8AM/ywGU)

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 学園長の表情は穏やかな笑顔で、それ自体はいつもと変わらない。何を考えているのかを悟らせないのも普段通りだ。
 ただし雰囲気が違う。心臓を直接撫でられるような不快感がボクを襲った。

「姉ちゃんが学園に呼び出された理由も知りたかったし、なにより笹木野龍馬も来ると思ったから。
 方法は教えない。対策されたら嫌だから」

「えっと、色々聞きたいことはあるんだけどまず、私は学園長で君は生徒。敬語を使おうとは思わないのかい? ましてやこの状況で」
「必要ないと思うから」
「ああ、そうだったそうだった。君は日向君の弟なんだっけ……」

 それってボクと姉ちゃんが似てるってこと? 嬉しい。

「次に、どうして笹木野君が来ると思ったから来たんだ?」
「だって、絶対姉ちゃんのこと友達以上に見てるから。何か変なことしないか見張るために」
「彼らは友達ですらないんだけどね。まあ心配する気持ちも分からないことはないかな。あの二人の間の感情は、異常ではあるからね」
 は?
「どういう意味?」
「ひ、み、つ」

 学園長は人差し指を口の前にかざし、茶目っ気たっぷりにウインクをした。

「チッ」
「まあまあ。
 それからさ、君、鈍感ってわけじゃないよね? なのにどうして私の『圧』を正面から受けて平然としてるのかな? こう見えて魔力だけは大量にあるんだけど」

 そう。先程学園長を取り巻く雰囲気が変わったのは、学園長から魔力が放出されたからだ。他人の魔力が自分の体の周りに満たされたことにより、魔法使いだけが感じる独特の不快感を与えられたのだ。
 魔力濃度が濃ければ濃いほど、その不快感は増し、耐性のない人は体調を崩すことすらある。魔法酔いとか、魔力酔いとか呼ばれている。
 ボクの家系はエクソシスト。悪魔の『気』を敏感に感じ取らなければならない職業だ。そしてボクはその力を正常に受け継いでいる。悪魔を祓ったことはまだないが、『悪意』に成長する前の『邪気』を祓ったことなら何度もある。正確には祓わされたんだけど、ね。

「うーん、なんでだろ?」
 誤魔化している訳ではなく、本当に分からない。昔はもっと過敏に反応してしまっていたんだけど。慣れたのかな。
「ふむ」
 学園長は腕を組んでなにやら考えているようだ。しかし数秒後、すぐにボクに尋ねた。

「君、感情が欠落しているんじゃないか?」

「……え?」

「前からなんとなく思っていたんだよ。君が笑うとき、どこか空虚な感じがして。上手く言えないんだけどね。
 と言っても完全に無くしている訳ではないみたいだ。さっき私が【転移魔法】で部屋に入れた時驚いていたみたいだしね。
 でもこの真冬に寒そうな素振りひとつ見せないし」

「……」

「なにか条件があるのかな。ねえ、どう思う?」

「……」

「返事くらいして欲しいな」

「……わからない」

「そうか。なら憶測で語らせてもらうけど、日向君が関係するんじゃないかな?」

「!」

 ヒヤリと背中に嫌な汗が流れた。

「多分、感情の優先順位があるのかな。日向君のことを考えている時はそれでいっぱいいっぱいになって、感情なんか感じてる場合じゃないんだよね。
 でも、自分の核心を突かれたときは取り乱す。今みたいに。何か間違えているかい?」

「……」

「九年前、君たち姉弟にとって運命の日となった『白眼の親殺し』の事件当日、何があったのかは全て知っている。人が、しかも実の両親が目の前で死んでしまえば、精神がおかしくもなるよね。だから君は自分を保つために日向君に依存することを決めたんだ。多少人格はおかしくなってるけどね。昔は自分のことを『俺』と言っていたし、話し方も違っていた。君は忘れてしまったかもしれないが、随分と昔に授業参観で君と私は会ったことがあるんだよ。
 なのに周囲の人間は君と日向君を引き離した。依存対象から離されて会うことも許して貰えない生活の中で君の人格はさらにねじ曲がった」

「……」

「その証拠に、君は実の祖母と祖父を殺しているだろう? 方法は単純。祖母は命を繋いでいる契約精霊を引き剥がして衰弱死。祖父は君が間接的にとはいえ祖母を殺したことを知り絶望し、衰弱しきったところで毒殺。全く、日向君は弟になんてことを教えているんだ」

「姉ちゃんを悪く言うな!」

「すまない、そんな気はなかったんだ。でもその様子は、図星だね」

「なんでわかるんだよ、そんなことが……!」

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