ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.241 )
日時: 2021/08/15 09:39
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: lQjP23yG)

 14

「バケガクの学園長なんて役職に着いていると、それはもういろんな生徒を見てきたんだよ。つまり、経験だね。今だって精神を病んだ生徒は大量に在籍している。不登校の生徒もいれば、君みたいに悪意を秘めて生活している生徒だってたくさんいるよ」
「そんなのボクには関係ないね。ボクとそいつらは違う人間なんだから」
「君がどうしてわかるんだって聞いたんだろう?」
「ああそうかい! もういいよわかった!」
「不貞腐れられてもなあー」

 学園長は苦笑いをしてくしゃりと軽く頭をかいた。

「聞きたいことはないし、君のこともわかったし、初犯だし、一年生だし、実害はないし、そもそも君が侵入してるってことはわかっていたし、今回は見逃してあげよう。でも、本当なら牢屋に入れなければいけないようなことを自分がしたってことを自覚して、ちゃんと反省するんだよ。いいね?」
「……はい」
「拗ねない拗ねない。ほら、そろそろ始まるみたいだよ」

 学園長が指さした方向を、バケガク本館があった場所を見るが、ぼんやりと瓦礫の色が広がっているように見えるだけで、他には何も見えない。ここからの距離が遠すぎるのだ。

「【百里眼】を使わなかったのは偉いね。今はいいけど結界が発動されたら魔法反射の影響でとんでもないことになるよ。彼女の魔法反射は凄まじいからなあ」
 そうしみじみと語る学園長を見て、ボクは何かあったのだろうかと思った。
「さ、一度目を閉じて。見えるようにしてあげるから」

 ちょっと待って! なんで【百里眼】の名前を知ってるの?! 魔法を使って覗いていたことはわかっても、魔法の名称、しかも公認されていない魔法の名称がわかるわけないじゃないか!

 そう質問しようとするが、その前に両手で目を塞がれた。
「すぐ済むから、大人しくしなさい。
 ……はい終わり、いいよ」
 学園長は言葉通り、三秒ほどでボクを解放した。
 そして目を開けると、

 視界がまるっきり変わっていた。

 見えているものは変わらない。変わったのは、視界の明晰度だ。さっきまでぼんやりとしか見えていなかったものまでがハッキリと視界に映っている。

 視力が、上がってるのか?

「私の視界の情報を君の頭に直接流しているんだ。【百里眼】は視界を直接その場所に持っていく魔法だけど、私のこれは【視力強化】。魔法の効果を結界の中に入れるわけじゃないから魔法反射は行われない。
 ただし、この魔法を実際に自分で使うと目への負担が酷いから、朝日君は使わない方がいいね。生半可な鍛え方をしても耐えられない。私の体は『おかしい』から問題ないんだけどね」
「あの、さっきから言ってる『結界』ってなんのことですか?」

 ボクが疑問をぶつけると、学園長は言った。

「地面に黒い文字が刻まれているのが見えるかい? 歩いてきたときは気づかなかっただろうけど、こうして遠くから見たら、何かわかるだろう?」
 うーん? なんだろう。
 あっ!

「魔法陣だ!」

 そういえばベルに「魔法陣の用意完了」とか言ってたっけ。これのことだったのか。
 それにしても大きな魔法陣だ。なんと書いてあるのかわからない、見たことの無い文字が円状に敷地をぐるりと囲み、それが何重にも連なっている。

 そしてその中心、破壊し尽くされたあの場所の中で唯一無事だった『四季の木』の元で、姉ちゃんが佇んでいた。

『四季の木』って無事だったんだ。気づかなかった。それにしてもどうして無事だったんだろう。本当に不思議な木だな。
 見ると、姉ちゃんの傍にベルがいる。そうか、これを見て「そろそろ始まる」と言ったのか。

 姉ちゃんとベルは何かを話している。けど、もちろん聞こえないからその内容まで分からない。今のボクは二人の唇の動きまで見えているけれど、読唇術なんて使えないし。
 そんなことを考えている間に二人の会話は終わったらしく、ベルが何か唱えた。するとベルの体が光に包まれ、そしてその光の中にベルが溶けた。光はさらに姉ちゃんを覆い、姉ちゃんの体が発光しているみたいな状態になった。

 そこから魔法陣が発動するまでは、本当に一瞬の出来事で、ボクは何が起こったのか、すぐに理解することは出来なかった。そんなことは不可能だったのだ。

 15 >>242