ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.243 )
日時: 2023/05/05 05:28
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: YC5nxfFp)

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 風も止み、光もだんだんと収まってきた。一時的な失明から回復した僅かな数の人がざわざわと騒ぎ始めている。
 ボクは【聴域拡大】を使って、彼等の会話を聞くことにした。

「一体、何が起こったんだ?!」
「わからない……うっ、気持ち悪い……」
「誰か、回復魔法を!」
「駄目だ、魔導師や魔術師は皆意識を失ってる!」
「なんだとっ!?」
「おそらく、魔法感覚が鋭敏な分影響を強く受けてしまったのかと」
「魔術師達どころか魔導師達まで気絶させてしまうなんて有り得るのかっ?!」
「一人ならまだしも全滅させてしまうなど、聞いたことがありません!」
「ええい! この際魔法士でも構わん! 誰かいないのか!」
「試しましたが無理です! どうやら魔法障害を引き起こしているらしく、回復魔法が効きません! 失明も、組織が死滅しているようで、完治させるのは不可能です!」
「なんだとっ!?
 っ、そうだ! 確か今日呼び出されていた学園の生徒で魔術師が二人居たな。その二人の無事を確認して来い!」

 これはつまり、『あの』二人のことだろう。そういえば、笹木野龍馬たちは何処にいるのだろうか。学園長の口ぶりから察するに他の奴らとは違って無事ではあるだろうが。
【聴域拡大】は、あくまで意識的に視界に捉えている範囲。視界の中にあの三人がいたとしても、ボクがその場所を把握していなければ声を拾うことは出来ない。

 どこだろう、と全体を見渡してみると、案外簡単に見つかった。森からすぐ脇の、結界の魔法陣の縁辺りに三人で固まって何かを話しているようだった。

「び、っくりした。いまのなに?」
「いままで抑えていた魔力を一気に解放したから起きたことだと思うけど……いやはや、流石だな」
「でも、このままだと本当に魔力切れするんじゃないか? 心配だな」

 不安そうに結界の向こうを見やる笹木野龍馬に東蘭は言った。
「どうせあいつに何かあってもおれたちは中に入れないんだから、とりあえずそこはおいておこうぜ。心が乱れると魔法も乱れるんだし。
 ああ、そうだ。スナタ、気分悪いとかあるか? まさかこんなに強い衝撃が来るとは思ってなかったから、防ぎきれてなかったかもしれない。一応必要以上にガードの強度はあげてたけど」

「うん、平気だよ。やっぱりすごいね、二人は」

 そう言うスナタの表情は、なんとなく、暗かった。

 まあそうだよな。四人の中で一人だけ平凡そうだし。いや、でも、ジョーカーの魔法を破ったんだよな。姉ちゃんのそばにいるってことは、やっぱりスナタも何か持っているんだろうか。
 むしろスナタは、あの中で一番謎の多い人物かもしれない。

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