ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.245 )
- 日時: 2021/08/18 22:58
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: fIcU8FL5)
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なんだ、あれ。二重人格? それとも、今まで猫を被っていて、あれが本性なのか? いや、二重人格は別人が一つの体に入っている状態のことだから違うだろうし、猫を被るような奴と姉ちゃんが仲良いわけない。でも、だとしたらなんだ? ただ怒っているというだけには見えないけど。
「おやおや、あの状態のスナタ君を見るのは久々だなあ」
あくまで面白そうにしみじみとそう言う学園長に、ボクは尋ねた。
「あれって、どうなってるんですか?」
すると学園長はクスッと笑い、説明を始めた。
「スナタ君はね、感情が一定以上溜まると自分の感情を抑えられなくなるんだ。そしてあんな風に、人格が変わったかのように口調や雰囲気が変わるんだよ。二重人格と間違われることが多いけど、厳密には違うかな」
つまりは感情によって起こるってわけか。魔法が暴走しない分まだましだな。世渡りは下手そうだけど。
「な、な、な……魔法使いのくせにその口の利き方はなんだ! しかもお前は魔術師ですらない魔法士じゃないか! 兵器としての役割もこなせない奴が偉そうにッ」
「わたしとしては、どうして魔法も使えない不適応者が『自分たちの方が上だ』なんて思っているのか理解出来ないですけどね。もちろん魔法が全てではありませんが、わたしたちの生活を守っているのは魔法です。我々魔法使いを『兵器』と称している時点で、魔法使いを兵力として認識していると、魔法の力をあてにしていると思うのはわたしの気のせいですか?」
「なっ、なっ……」
先程とは立場が逆転し、今度は男が顔を真っ赤にしている。スナタの目は完全に冷えきっていて、変わらぬ無表情で男を射抜く。
感情に任せて男が怒鳴ろうとしたところで、姉ちゃんが張った結界に変化があった。
ゆっくりと、やわらかな光が押し寄せた。結界が発動した時のような唐突で強烈な光ではない。
ぼんやりとした光。
その表現が正しいと思われる程の、穏やかな光だった。
「とうとう始まるみたいだね」
ぽつりと学園長が音を零した。表情を見てみると、真剣な中に僅かに『楽』がチラチラと顔を出していた。しかしやはり緊張感が漂う、何とも言えない表情だ。
そう言うボクも人のことは言えない。言葉にして表すことの出来ない高揚が心臓を包み込み、無意識に両手を握りしめていた。
大きな魔法を行うには、準備が必要となる。魔法陣や結界なんかの『下準備』とは別に、精神を安定させたり術式を組み立てたり長い詠唱を行ったり。【創造魔法】がどのようなものなのか、詳しいことはボクは知らないけれど、姉ちゃんでも簡単にこなすことの出来ない魔法だってことくらいは分かる。
これから何が起こるのか分からない。だからこそ未知のものに対する恐怖と不安、一抹の興奮がザワザワとボクの中で複雑に絡まりあっている。
「姉ちゃん、頑張って」
気付かない内に漏れていたその言葉を、ボクは自覚しないまま、じっと結界を見守っていた。
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