ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.246 )
日時: 2021/08/19 21:46
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: y3VadgKj)

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 結界の中を漂っていた雪のような純白の光の粒は、だんだんと金粉へと変わっていった。やがて白と金の比率が等しくなった頃、ボクは金粉の発生源に気がついた。
 それは、ボロボロに崩れた瓦礫や、なぎ倒された木々だった。個体であるはずのそれらは春風に連れられるかのように金粉と化して白を彩る。
 サラサラと砂のように空気に溶けだす金粉はふよふよとさまよった後に消えてしまうものもあるし、複数の金粉が合わさって、一つの淡い光になるものもある。
 その光はまるで、精霊使いが稀に見せる可視化された〈媒体精霊〉によく似た──

 まさか。

「くうかん、せいれい?」

 震える口から乾いた息が吐き出された。
 いや、そんなわけない。そんな魔法があるわけが無い。物体を『最小の単位』まで【分解する魔法】なんて……。

 いや。

 空間精霊。それは物質を構成しているとされている最小の単位。『精霊を寄せ付ける力』にも関係したものとされているが、それはあくまで一説であり仮説。しかし現段階で一番有力な説でもある。
 物質を構成しているもの。それと【創造魔法】が無関係であるわけが無い。それを何故、今の今まで忘れていたのだろうか。【創造魔法】が難しいと言われる所以ゆえん。それは『確実でない説を信じ、いかに自分のものとするか』が問われるからだ。立証されていないということは、正解が定められていないということ。いくら書物を読んでも無いものは無いのだ。そのため、自分の中で穴のない完璧な理論を組み立てる必要がある。それは本を読んだり人から習うだけで満足するような魔法士や魔術師には出来ない所業で、魔道士ですら自分で理論を組む──オリジナル魔法を開発することが出来る者はほんのひと握りだと聞く。ちなみに姉ちゃんはそれを昔から平然とやってのけていたのですごい人なのだ。

 今現在一般に知られている【創造魔法】の方法は、『決まった空間精霊を決まった位置関係で組み合わせて形を作り性質を与える』というもの。空間精霊の種類は数億にのぼると言われており、決まった種類や組み合わせを覚えるなど常人には出来ない。これはボクが【魔力探知】で姉ちゃんしか探せないのと同じような理由。この世のありとあらゆるものの構造を空間精霊のレベルまで覚えていては脳が情報に耐えきれないのだ。だから【創造魔法】で作り出されるものには小岩や造花などの比較的小さなものが多い。また、魔法の理屈が同じなため、錬金術もこれに分類すると記された魔法書が多い。

「朝日君」

 ボクは思考に耽っていたが、学園長の呼び掛けにより現実世界に戻った。反射的に素早く学園長を見ると、何故か目を伏せていた。
「もう気づいているかもしれないけれど、日向君が行っている魔法は【創造魔法】だけでは無い。日向君のオリジナル魔法【分解魔法】があの中で行われているんだ」

 学園長は、何を言おうとしているのだろうか。
 うっすらと開かれたその目は姉ちゃんがいる方向を向いているが、意識はボクに向いている。どうしてだかボクは鋭い視線を学園長から感じ、足に力を入れて身構えた。

「【分解魔法】は【創造魔法】の発想を逆転して生み出された魔法。そして、おそらく日向君にしか扱えないであろう特殊な魔法だ。
 朝日君。日向君からの頼みでね、君が望むようなら今日日向君が行う魔法のことを教えてやって欲しいと言われている。君のことだから、ノーなんて言わないだろう?」

 目がボクに向いていないため、学園長には見えないと知りながら、ボクは大きく頷いた。
 そんなの知りたいに決まっている。ボクは姉ちゃんの全てが知りたい。そのために生きているんだから。
 ボクが頷いたのを見ていたはずはない。しかし学園長はボクの反応を確認する素振りもなく、静かに語り始めた。

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