ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.247 )
- 日時: 2021/08/20 23:50
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 0.f9MyDB)
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「この聖サルヴァツィオーネ学園が、どうして歴史的価値が高いのか知っているかな?」
どうやら学園長は順序立てて話そうとしているようだ。ボクは頷き、ボクの知るバケガクの価値についてを口にした。
「今のBの時代よりも前の時代に出来た、利用を続けられている唯一の建築物だからですよね」
バケガクは、建築当時の状態を極めて綺麗に保ち続け、改築なども行われたことがないため、『奇跡の遺跡』だとも呼ばれている。ただ、世間の大多数は「そんな建築物が存在するわけが無い」という意見を持っている。それもそうだ。数多の種族が生息するこの世界にも、流石に百万年生きる種族は存在しない。建築当時を知る者が一人もいなく、Bの時代より前の時代の文献もほとんど残っていない。証拠が残っていないのだ。
「そうだね。君がそれを信じているのかは知らないが、それは真実だ。しかしそれだけでは無い。この学園は、文字通り神の創造物なんだよ」
「は?」
思わず声を出してしまった。なんだ、どういう意味だ? 神の創造物?
「何故作られたのかは分からないけれどね。神がその手で造ったんだ。この世界に存在する遺跡は古代の『人々』が建造した物がほとんど。神が作成したと分かっている創造物は少ないから、そういった意味でも価値が高いんだ」
そこまで聞いた時、ボクはとある疑問が浮かんだ。
「あの、学園長はどうしてそんなに物知りなんですか? 他にも色んなことを知っているみたいですし」
「年の功さ」
学園長は即答した。それはなんだか用意していた言葉を伝えられたようで、ボクはその言葉を全く信用出来なかった。そしてそのことを察したのか学園長は苦笑した。しかし、それだけだった。
「だから、後世にも『建築当時のままの状態』で残す必要がある。なのにバケガクは壊れてしまった。そんなことになれば、普通なら業者に頼んで修繕してもらうところだが、バケガクではそうもいかない。破壊されてしまえば、『破壊される前の状態』に、『完璧に』直さなければならない」
ボクはゾッとした。学園長が言おうとしていることを、言われる前に、理解したからだ。そしてそれは、とんでもないことだった。
「言う前に分かったみたいだね」
そう言ってボクに体ごと目線を向けた学園長は、仄かな白い光に当てられて、右半身が白く染まり、反して左半身は影が落ちていた。視界から色彩が失われ、白と黒が『色』を侵食していく。
身体中が震え、力が抜けていき、立っていられなくなる。そしてとうとう、がくんと膝をついた。かなり痛みが走ったようだけれどそんなどうでもいいことに構っていられるほどの余裕はボクにはなかった。
思い出したんだ。
ずっと昔、家族全員が大好きなんだと思っていたくらいの幼い頃に、姉ちゃんがボクに話してくれたこと。その頃からボクは姉ちゃんに魔法のことを教えてとねだり、そうして教えてもらったことの一つだった。
例えば一つの石があったとして、【創造魔法】でその石そっくりの石を作ったとする。けれど元の石と魔法によって作った石は別物だと。しかし唯一、元の石と全く同じ石を作る方法がある。
『その石を構成している空間精霊と同じ空間精霊を用いて、寸分の違いもない構成で石を作り上げる』。そうすればその石は完璧なコピーとなる。しかしそれは不可能に近いのだとも、姉ちゃんは言っていた。
当時のボクにはその話は難しすぎて理解出来ず、そのため今の今まで忘れていたのだ。
何故不可能なのか。その理由は簡単だ。『魔力がもたない』からだ。
数億にのぼるのは、あくまで空間精霊の『種類』であり、空間精霊の『総数』ではない。総数の話になればその数は無限大になる。その無限大の数の中から一つ一つを区別することなんて……
『難しい』んじゃない。
『不可能』なんだ。
そんなの魔力だけの問題じゃない。複雑な魔法を使い続ける精神的疲労と体の負担で心身共に影響が出る。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
喉に水分を奪う熱い風が吹いた。バクバクと心臓が肉を食い破ろうとして、ドクドクと血管が破れるくらいに脈を乱す。頭がぼうっとしているのに意識はしっかりとしていて、嫌な考えばかりが頭の中でぐるぐると回る。
姉ちゃんは『不可能に近い』と言った。不可能だと、断言した訳では無いのだ。
姉ちゃんを疑うわけじゃない。逆だ。姉ちゃんならそれが出来かねないから、不安なんだ。
姉ちゃんは確実に、『完璧にバケガクを修復する』ことが出来るだろう。
たとえ、命を落としたとしても。
姉ちゃんがバケガクに命を賭けるほど思い入れているなんて思わないけれど、ボクはあまりにも姉ちゃんを知らない。こんなに大きな魔法まで使えるなんて知らなかった。『使える』という事実に違和感は感じなかったが、実際に目に見るまで、『知らなかった』のだ。
吐き気がする。気持ち悪い。くらくらする。
「か、はっ」
吐瀉物は出なかった。代わりに胃酸が喉を逆流し、口からは出ずとも喉を焦がした。冷えきった手で喉を抑えても熱はいっこうに引かず、火は勢いを増していた。
息が出来なくなり、四肢の感覚も薄れてくる。脳は収まりきらない恐怖に押しつぶされて、ぐしゃぐしゃに破壊されそうだった。
死にはせずとも、急激な魔力の損失による魔法障害を引き起こすかもしれない。姉ちゃんに何かあったらボクは生きる意味を失う。ボクは姉ちゃんがいないとだめなんだ。母さんも、父さんとも、じいちゃんもばあちゃんもいない。ボクには姉ちゃんしかいないんだ。そうでないといけないんだ。ボクは──
あああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁあああああぁあああああぁああああああああああああああああああぁぁぁああああぁああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああああぁぁぁあぁあああああぁああああああああああああぁぁぁああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁ
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