ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.250 )
- 日時: 2021/08/22 11:57
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: OWyHbTg8)
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ゴゴゴゴゴゴッ
視界が急に大きく揺れた。学園長の姿が二つや三つに分かれる。足元が振らついて、立っていられない。慌てて柱に掴まりなんとか体勢を維持する。
「あー。ちょっと危ないかなあ」
そんな呑気な声が聞こえ、次に、パチンと指を弾く音がした。
何かの魔法を使うつもりなのかと目を見張ったけれど、何も起きない。ボクは拍子抜けして体の力を抜いた。
「さあ! お仕事だっ!!」
しかし、目を爛々と光らせた学園長が叫ぶと、バケガクのあちこちで真っ白な光の柱が現れた。気を抜いていた分驚きで体が硬直する。光が現れたそれらの位置は確か、ここと同じ『通達の塔』があった場所だと思う。光は大きな弧を描いてこちらへ向かい、最終的に学園長の手の中に集結した。間近で目を潰すような強い光がバチバチと火花を散らし、この空間を支配する。
「色は……白でいいかな」
そうボソッと呟いたかと思うと、暴れていた光が指先一点に集中した。直径一センチの球状になったことにより、光からは瞼を貫通して突き刺すような強さが失われた。
右の手のひらの三本の指を折り、残った人差し指と親指を立てる。人差し指を結界へ向け、ブレないようにするためか、左手を右手首に添える。
『……!』
見たこともないような楽しげな顔で、聞いたことの無い呪文を口にした。球状だった光が直線に変わり、真っ直ぐに結界に向かう。
光は結界に直撃すると、結界の表面を包み込むように覆った。ぼんやりと光っていた結界がほんの一瞬閃光の如く輝いた。あまりにも突然のことで目がやられ、しばらく目の前が真っ白になり、そして暗闇に染まった。
やがてそれが収まった頃、気付けばバケガク本館・別館、それから森やその他建築物等はすっかり元の状態に戻っていた。
パチパチと瞬きを数回繰り返した後、ボクは学園長に詰め寄った。
「一体何をしたんだ?!」
すると学園長は慌てるどころか爽やかな笑顔を浮かべて、表情全てで「楽しい」と語った。
「結界を補強したんだよ。大丈夫、通常の結界なら外部からの干渉を受けると基本的には力を跳ね返してしまうけど、展開したのは日向君だし、私の力は特殊だから。
厳密には私自身の力ではないんだけどね!
そして日向君は強化されたことを察知し、このままいけば魔法が失敗すると悟ったんだろう、一気に魔法を終了まで持っていったんだ! その結果がこれさ! うんうん、さすがだね」
にこにこと満面の笑みを向けられて、ボクは学園長を不気味に感じた。なんだよ気色悪い。雰囲気違いすぎだろ。
ボクの毛虫を見る目に気づいたのか、学園長はどこか焦点の定まらないぼんやりとした瞳にボクを映した。
「ふふふ。不思議そうだね、気になるかい? 私は久々に役目を果たせて上機嫌だから、特別に教えてあげよう!」
ちょうど聞こうと思っていたから構わないけれど、学園長はボクが(まだ)聞いてもいないことをペラペラと話し出した。
「私はこのバケガクを管理・維持するためだけに作られた者でね。その役目を果たすことに快感を感じるよう精神をいじられているんだ。感情を失った訳では無いしどうすれば自分が楽しめるのかがはっきりとわかるからそこに不満はないよ」
そして右手で拳を作り、甲の部分を額に当て、
「いやあ、いい汗をかいたよ!」
全く汗をかいていない顔でそう言うのだった。
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