ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.253 )
- 日時: 2021/08/25 19:50
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: .bb/xHHq)
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森を抜けると、ほんの数十メートル離れた場所にバケガク別館がある。ついさっきまで半壊以上の状態だったとは思えないほど綺麗で、しかし新品同然という程でもない。壊される前のそのままに、まるで何事も無かったかのように構えている。
石の質感もほんのわずかな石と石のズレ具合も、寸分の違いもない。質感もズレ具合も完璧に記憶している訳では無いが、覚えている限りのものと照らし合わせて見ても、全く違和感を感じないのだ。
「すごいなぁ……」
小さく聞こえたその言葉は、どうやら呟きらしかった。スナタの口から落ちた珠のような言葉は、地面を転がり、ボクの足にコツンと当たる。
「すごいですよね」
ボクもたった今思っていたことを口にする。するとスナタは寂しげに微笑んだ。
「すごいよね」
すごいの繰り返しをやり取りする。それはまるで、悩みを言葉にするのをためらうような、思いを言葉にすることに不安を抱いた者の話し方に感じられた。
「スナタさんは、どうして姉ちゃんと仲良くなったんですか?」
滑らかに喉をすり抜けてきた言葉を耳にし、ボクは驚いた。そりゃあ、あれほど人と関わりを持とうとしない姉ちゃんが何故スナタ達と親しくしているのか、その理由をいつかは聞こうと思っていたけれど。それにしても、まだ早い。三人のうち誰か、情報を与えてくれそうな奴ともっと近づいてから聞くつもりだったのに。
「それを聞いちゃうかー」
あはは、と、空気を吐くような笑い声を上げたあと、スナタは言った。
「仲良くなった理由は、なんだったっけ。朝日くんって確か、東蘭って人、知ってるんだよね? 日向とは、あの人からの紹介で知り合ったんだ」
スナタの言う通り、ボクは昔から東蘭とは面識があった。それも、まだ両親が生きていたあの頃から。
きっかけは知らないけれど、姉ちゃんと東蘭はいつからか親しくなっていた。同じ天陽族の名家同士だから会う機会もそれなりにあったし、〔白眼〕と〔半端の才児〕という疎まれ者同士、何かと気が合うのだろうと大人たちが嘲笑混じりに言ったことがまだ記憶にある。
ボクも何度か姉ちゃんにせがんで会わせてもらったことがある。〔白眼〕と罵られている姉ちゃんがすごいのだから、姉ちゃんとも気が合うのから東蘭もさぞかしすごい人物なのだろうと思ったのだ。姉ちゃんはボクがせがむとちょっとだけ嬉しそうにして、大人の目を盗めるタイミングで東蘭のところまで連れて行ってくれていた。
東蘭は、人の好き嫌いが激しく、人によって当たりを強くするような性格のため周囲の人間からは好かれていないようだった。けれど嫌う理由がきちんとしているし、嫌なことは嫌だとちゃんと言う人だったため、はっきりしている東蘭が、ボクは好きだった。
いまは、どうだろう。十年以上会っていないから、わからないや。
「東さんとは、仲がいいんですか?」
質問の方向を変えてみる。スナタはふわ、と微笑んだ。
「うん。仲良くしてくれてる。教室も同じだし、寮暮らしなのも同じだし。一緒にいることが多いかな」
やはり、スナタは劣等感が強いように思う。友人に対して、仲良くして『もらっている』なんて、普通は思わないんじゃないだろうか。
「わたしたち二人とも、他に友達なんていないしね」
苦笑が混じったその笑みには、寂しそうな雰囲気は感じられなかった。
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