ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.254 )
日時: 2021/08/26 21:57
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KVjZMmLu)

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「朝日くんはどう? 仲のいい人っているの?」
 自分に友達が少ない理由を詮索されたくないのか、スナタは矛先をボクに向けた。直後に、自分が訊かれたくないことをボクに尋ねたことに罪悪感を抱いたらしく、バツの悪そうな顔をする。
 別に気にするようなことではない。ボクにとってスナタに友達がいないことなんてどうでもいいことだし、この質問も特に拒否する必要もない。

「一人だけ、よく話す相手はいますね」

 他は情報収集の道具にしか使っていない。それなりに遊びにも付き合ったりしているので、ウィン・ウィンの関係を保っている。良くも悪くもそれだけだ。

「少ない友達を大事にするタイプなの?」
「いえ、そういうわけではありません。昔はたくさんいましたし」

 昔は、じいちゃんの名前に釣られたやつばかりが寄って集って来た。じいちゃんの孫は姉ちゃんとボクだけで、姉ちゃんに近寄りたい奴はいなかったから、その分ボクに集中したのだ。その中でも根元から良い奴はそれなりにいて、そこそこ良い関係を築けていたと思う。というか、じいちゃんの家にいた一年程前まで仲良くしていた。縁が切れたのは、バケガクに入学してからだ。八年前から何かと「朝日はおかしい」「朝日は変だ」と言い出して、ついに我慢の限界が来たとでも言いたげに離れていった。ボクも人との友好関係を煩わしいと思っていたのでちょうど良かった。バケガクに入学して半年くらいは、姉ちゃんとの接触もなかったし独りで過ごしていたけれど、ある日ボクに話しかけてきた人──怪物族の女がいた。最近ではあの人とよく過ごしている。

「そうなんだ」

『四季の木』を周ってバケガク本館の入口を通り、突き当たりを右に曲がる。
「もしかして保健室ですか?」
「うん。よくわかったね。
 って、わかるか。校内で横になれる場所なんて限られてるもんね」
 保健室なら、もうすぐで着く。今歩いている廊下を奥まで歩けばそこにある。
 学園長は、ボクが辿り着く頃には姉ちゃんは寝ているだろうと言っていた。スナタもそれを分かっているようで、会話など一つもなく、足音すらも抑えて静かに保健室の前まで歩いた。

 コンコン

 目的地に着くと、スナタは扉を控えめにノックした。
「入るよ」
 返事を待たずに、音をたてぬようゆっくりと扉を開く。キッ、キッ、と時々小さな音は鳴ったけれど、気にするほどのものではない。

 部屋の中に明かりは一切なく、カーテンもきっちりと閉められていた。カーテン越しに届く淡い光しかない部屋に、二つだけ、息を呑む程に綺麗な『蒼』があった。その蒼は暗い部屋に違和感すら感じさせるほど存在を主張していて、しかし部屋の中に溶け込んでいた。
 笹木野龍馬は吐息も感じさせないくらい、時が止まったかのように静寂に、それでいて穏やかに、眠る姉ちゃんを見ていた。ベッドの傍にある丸椅子に腰掛け、静かに。

 その光景を見て、知らず知らずのうちに息を止めていたらしい。ふう、と息を吐くと、それに気付いたのか笹木野龍馬がボクを見た。
「ああ、来たのか」
 そして目の焦点をずらし、スナタを見る。
 会話もないまま立ち上がり、最後に優しい眼差しを姉ちゃんに向け、真っ直ぐにこちらへ来た。
「あと一時間は目覚めないと思う。目が覚めたら、おれたちは第一グラウンドの方にいるって伝えてほしい」
 ボクが頷くと、笹木野龍馬は、スナタと一緒に部屋から出ていった。

 扉が閉まると部屋は更に闇を濃くし、カーテン越しの光がより強く感じた。
 ボクは笹木野龍馬が座っていた椅子に座った。本当は他の椅子に座りたかったけれど、そのためには椅子を移動させなければいけない。物音をたてるのは避けたかったのだ。

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