ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.266 )
日時: 2022/01/08 09:01
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wNoYLNMT)

 2

 ボクが教室に入ると、賑やかな雰囲気が激変する。静まり返った空気の中、ボクは真っ直ぐに自分の席に向かって歩く。
「おはよう、ゼノ」
 戸惑いの色を浮かべていたゼノだったが、ボクがそう声をかけると、少しだけ緊張が緩んだように微笑んだ。
「うん、おハよう」

 ゼノイダ=パルファノエ。ボクが唯一交友関係を持つ女子生徒。

「アサヒ、元気にしテた?」
「肉体的には健康だったかな」
「なにカ、アったノ?」
「うん。あとで話してあげる」

 教室ここだと人目がある。いまボクたちの周りで小声で話されている内容は、きっとこの間のバケガク校舎崩壊事件のことだろう。あれは、先日生徒会長が王位継承権を正式に剥奪されたこともあって、世界中で話題になっている。生徒会長は父王に「あの場所には、天陽族の花園日向と、吸血鬼族の笹木野龍馬、そして悪魔と化したバケガク生徒の真白がいた」と話したらしい。それを受けて自宅には本家からの呼び出しの手紙が来た(まだ姉ちゃんには見せていない)し、笹木野龍馬も当主から尋問されたらしい。

 けれど、笹木野龍馬は何も語らないと新聞記事には書かれていた。生徒会長は悪魔(真白)がかけたと思われる呪いによる不治の病とやらで深い眠りについているらしく、情報源が笹木野龍馬しかないようで、記者やら貴族やらは笹木野龍馬が属する家に圧力をかけたそうな。すると今度はその家の当主が外部からの圧力を疎ましく思い、世界各国の王族貴族と冷戦状態になったとか。それによってさらに情報が入手しづらくなり、頭を抱える連中も少なくないという。

 ああ、いや、元生徒会長だな。たしか今はエリーゼ=ルジアーダが代理で生徒会長をしているんだった。来年度に向けて近々生徒会総選挙が行われるまでの短い任期ではある。しかしその生徒会総選挙に向けて勢力争いが勃発していて、現生徒会長は問題行動をする生徒の鎮圧に奔走していると聞いた。ここ二、三年は元生徒会長が生徒会長を務めていたためその席を争う者は少なくなっていたが、席が空いたことにより再び争いが起こってしまった。さらにしばらく大人しくしていたため、その数年分の蓄積が爆発してしまい、酷いときだと分単位で問題が起こるようになってしまったという現状だ。
世界中でもバケガクでも、面倒くさいことになっている。

「あトで……っことは、また一緒二オ昼ごはんを食べらレルの?」
「うん。そういうこと」
 ゼノは胸の前で手を組み、はにかんで見せた。
「うれシい。ありがとう」
 何もお礼を言われるようなことはしていない。そう思いつつ、ボクは言う。

「どういたしまして」

 こうしてボクらがいつもの日常会話をしている間も、周囲のざわめきは止まない。

 ──面倒くさいな。

 でも、反応するのも面倒くさい。あいつらと会話をしてもボクに利益なんてないんだから、無駄でしかないし。
 大丈夫。いつものことだ。いつものように耐えればいい。耐えることは得意だ。何故? 何故ボクが耐えねばならない? あんなやつらのために、ボクが、何故。

 不快感は増すばかり。だけど不安そうにボクを見つめるゼノを見て、少し気が落ち着いた。

「大丈夫だよ。いつものことだ」

 今度は、ゼノの表情は晴れなかった。ボクに合わせて、無理に笑ったようだった。

 キーンコーンカーンコーン……

 始業のベルが鳴る。入ってきた担任は、なんとなく感じる居心地の悪さに首を傾げていた。

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