ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.280 )
日時: 2022/05/05 09:48
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: lvVUcFlt)

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 ボクも教科書を開き、まずはニオ・セディウムの神々を説明する。

「始めは基本から。ニオ・セディウムの神々は皇帝とその子供、五柱の帝王が頂点に立つ。その六神をまとめて『ニオ・セディウムの六帝』と呼ぶ。これは知ってるよね?」
 教科書の文言を入れつつ言うと、ゼノは頷いた。
「一人一人司るものが違うから、それを覚えよう。テストによく出るのは、この二人」

『テネヴィウス』『ディフェイクセルム』

「テネヴィウスは六帝の中で、その頂点に立つ。そしてディフェイクセルムはニオ・セディウムの神々の中で唯一のキメラセル側の神で、邪神でありながら平和の象徴とする地域もある。様々な種族の共存が進んできた現代で、ディフェイクセルムの注目度は高い。だからまずは、この二人は抑えておくべきだ」

 怪物族ならば、ニオ・セディウム神話のことは幼少期から覚えさせられる。ゼノもここまでは難なくついてきているようだ。

「それで、司るものを覚えるのはまずこの三人からがいいかな」

『ディフェイクセルム』『コルクフロァテ』『イノボロス=ドュナーレ』

「ディフェイクセルムは生物の創造を司る。
 コルクフロァテは生物の融合を司る。
 ディフェイクセルムとコルクフロァテは双子神だ。だから司るものも繋がっている。ディフェイクセルムが生物を生み出し、コルクフロァテが生物を融合し、さらに新しい生物を生み出す。
 それから、イノボロス=ドュナーレも似ているんだ。司るものは、生物の能力の与奪。ディフェイクセルムが生み出した生物の力を奪ったり、奪った力を別の生物に与えたりできるんだ。G級、E級、C級とあるスライムは元は全て同じ種類で、なにかの理由でイノボロス=ドュナーレに力を奪われたことで種類が分かれたのではないかと言われてるよ」

 ふむふむと頷いていたゼノが、首を傾げた。

「デも、似テるからコソごちャゴちゃになルノ」

 生物に関与して新しい生物に創り変えるということはコルクフロァテとイノボロス=ドュナーレに共通しているので、ニオ・セディウムを学ぶ上でこの二神を双子神と考えてしまうか、ディフェイクセルムとイノボロス=ドュナーレの力を逆に覚えてしまう人も多い。
「イノボロス=ドュナーレって、ほかの神とは違って名前に『=』が入ってるでしょ? これは、ディフェイクセルムが生まれたときに、あとから役割が付けられたからなんだ。だからイノボロス=ドュナーレは双子神の兄神。
 ボクはそういう風に覚えたけど、どう?」
 ゼノはこくこく首を縦に振った。
「ソッか、うん、わかりヤスい! ありがとう!」
「よかった。じゃあ、他の三神……に移る前に、ノートにメモとかする?」
「アッ」
 ゼノは思い出したように、開いていたノートに走り書きをする。走り書きの割には、綺麗な字なんだよな。

 ゼノが書き終わったことを確認して、再び口を開く。

「テネヴィウスはディフェイクセルムと同じで、生物の創造を司る。ただ違うのが、テネヴィウスは自身の魔力を使って生物を創る。それに対してディフェイクセルムは自らの血や涙、目玉や口から生物を生み出す。
 ディフェイクセルムが他の神に虐げられていたってことは知ってるよね? その時に流したり切り落とされたりした物が変化して魔物なんかになったと言われているんだ。二神の力の違いは、そう覚えたらどうかな。
 プァレジュギスは戦神。司るものよりも、使っていた武器『クイリットリアレィロ』がテストによく出てくるかな。『万物を粉砕する』って意味のこもった名前だよ。
 ノックスロヴァヴィスは、『ニオ・セディウムの六帝』の、唯一の女神だ。司るものは夜、そして新月。キメラセルにも満月の女神がいるから、その神ともなんらかの関わりがあるんじゃないかって言われてるよ」

 この三神は前の三神よりもややこしくないし、それにゼノは怪物族だから元々ある程度の知識はあるだろうから簡単にまとめて話したけど、どうかな?
 ついてこれているかゼノを見る。

 うん?

「ゼノ、大丈夫?」
 ゼノはぐったりしていた。
「イッぱイ頭のなカ入れたカら、ツカレた……」
「お疲れ様。ちょっと休憩しようか」
 もうそろそろ試験に向けて本腰を入れないといけない時期だけど、初回だからペースはゆっくりにしよう。
「ウン」
 ゼノが休憩している間、ボクは神話史の、キメラセルのページを見た。ふと、気になったことがあるのだ。

『『ニオ・セディウム』の第三帝ディフェイクセルム神は創造神ディミルフィア神に助けを求めた。……』

 どうしてキメラセルの神は、敵であるニオ・セディウムの神を受け入れたのだろうか。そしてディフェイクセルムは、どうしてディミルフィアに助けを求めたのだろうか。

 キメラセルの中に一人だけ。孤独を感じはしなかったのだろうか。神などいないと分かっていても、そんな疑問が浮かんでくる。

 それから。

〔邪神の子〕

 あの異名は、あいつをあまりにも的確に表しているような気がしてやまない。そのことが、なぜだかどうしても心のどこかに引っかかる。

「アサヒ、この問題オしえて」
 いつの間にか、ゼノは神話史の教科書とノートを片付け、数学の問題集を開いていた。神話史はもういいのか。
「うんいいよ。見せて」

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