ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.288 )
- 日時: 2022/02/26 10:25
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: reIqIKG4)
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体がふわふわしたものに包まれている、そんな感覚。意識も不安定で、何を考えているのか、自分でも分からない。いや、そもそも何も考えていないのかもしれない。分からない。
ボクは白いような黒いような空間に、ぽつんと浮いていた。冷たくもなく、暖かくもなく、光源の存在しない、明るくも暗くもない空間。光と影が蠢く空間。
ここは、どこなんだろう。
突然、ぐにゅりと影が動いた。それはボクの目の前で形を成す。ただ、それがなんなのかは分からない。人のようにも見えるし、ただの塊のようにも見える。
影が、にたりと笑った気がした。
『君はよく働いてくれている』
ザラザラした声が、辺りに響いた。口の中に砂を含んだような不快感がボクを襲う。
『もうすぐだ。もう少しで、世界はようやくあるべき姿に戻る』
世界? あるべき姿? 何の話だ。
『君が自分の役割を全うした暁には、褒美を与えよう』
いらない。そんなものに興味はない。
ボクの役割? なんだそれ。
『君が望むものを与えよう』
望むもの? 望むもの、なんだろう。姉ちゃんと一緒に過ごすこと。姉ちゃんを知ること? わからない。
『彼女を壊せ。君にはそれが出来る』
彼女? 誰のことだ? わからない。
わからない。
『頼んだよ』
_____
体がふわふわしたものに包まれている、そんな感覚。触れているものはさらさらしていて気持ちいい。
冷たい誰かの手が、ボクの頭を撫でている。
「う……ん」
「おはよう」
姉ちゃんが言った。ぼんやりとした頭を動かして、姉ちゃんを見る。そして、自分の状況を確認する。
ボクはベッドで眠っていた。姉ちゃんがかけてくれたのか、ちゃんと掛け布団も被っている。思った通りだ、すごく眠り心地が良かった。
なにか夢を見ていたような気もするけど、なんだったっけ? ……思い出せないことは大したことじゃないよね。いいや。
「気分、どう?」
姉ちゃんは首を傾げる。
「かなり良くなったよ」
すると、姉ちゃんの表情が変わった。ほっとしたような、安心したような、そんな表情。
胸が苦しいくらいに、熱いくらいに、気持ちが高揚した。
「じゃあ、戻ろうか」
ボクははっとした、そうだ、ここはバケガクで、今日は授業がある。しまった、寝すぎたかもしれない。今は何時なんだろう。まさかお昼時?
「姉ちゃん、いま何時?」
「この空間に時間という概念は存在しない。出ればわかる」
姉ちゃんはボクの手を握った。そして、またあの強い光が空間を支配する。
「また、何かあったら、話して」
光に覆われた道を歩きながら、姉ちゃんがボクを見て言う。
「うんっ!」
姉ちゃんは立ち止まり、ボクの手をぐっと引いた。その勢いに逆らわず足を動かすと、そこは学園長室だった。ボクと姉ちゃんは、学園長室の壁の前に立っていた。
「やあ、おかえり。随分と時間がかかったね」
また本を読んでいた学園長がこちらを見た。薄明るい朝の陽の光が大きな窓から差し込む。
「戻る」
「うん、どうぞ」
「朝日、行こう」
姉ちゃんに言われるがまま、ボクは出口に向かう。
「失礼しました」
裏が知れない笑みを浮かべる学園長に、そう、声をかけて。
「今日の放課後、予定ある?」
廊下を歩きながら、姉ちゃんが言った。
「んー、どうだろ。なんで?」
すぐに思いつく用事はない。意識に引っかかるのはゼノとの勉強会だけど、これはゼノの予定もわからないとなんとも言えない。二人の時間が合う日にしようという話だったから。
「何も無ければ、一緒に帰ろうと思って。朝日が良ければだけど」
「すっごく暇だよ! 何もないよ!! 寄るところもないし、授業が終わったらすぐに帰ろうと思ってた!!!」
ボクは必死に言う。こんなチャンスを逃してたまるか。それに、嘘は言ってない。今日は姉ちゃんが帰ってくるということで、ゼノとの勉強会は今日は無しにしてもらうつもりだった。姉ちゃんの帰宅時間がわからないから、少し迷っていただけだ。
「そう?」
「うん!」
「じゃあ、一緒に帰ろう。えっと」
姉ちゃんが言い淀むなんて珍しいな。どうしたんだろ?
「五時頃朝日の教室に迎えに行くから、待ってて」
そっか、クラスによって授業数や一限の時間数が異なるから下校時刻がずれるんだっけ。
「わかった。待ってるね」
GクラスとCクラスでは、下校時刻の差は大きいだろう。でも、大丈夫。待てる。姉ちゃんと一緒に帰れるのなら、それくらいどうってことない。
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