ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.289 )
日時: 2022/02/26 10:26
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: reIqIKG4)

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「ってことがあったんだよ」
 弁当を片手に、ボクは歩きながらゼノに今朝のことを話していた。ただし、学園長室に行ったことやあの変な空間で話したことは省いて。なんとなく言わないでおこうと思ったのだ。
「ヨかッたね、アサヒ」
 ゼノはにこにこ笑いながらボクの話を聞いている。

「それにしても、今日はやけに人が少ないね」

 周囲を見ながらボクは言う。今は四限目が終わってから少し経ったくらいで、もうみんな、昼ごはんを食べる場所を押さえている頃だ。いつもなら。なのに今日は、流石に誰もいないということは無いが、普段と比べると圧倒的に人がいない。何かあったのかな?

「笹木ノ先輩が登校しテルってこトで、見にイく人が多いみタいだよ。行っテみる?」
「いや、いいよ。興味無い。それより、この機会を活かそうよ。『四季の木』の下で食べよ」
 ちょうど近くを通りがかったということもあり、ボクはそう提案した。

『四季の木』は、冬も葉を落とさない。白銀に輝く幹。純白の葉。そしてその葉の間からのぞく、銀灰色の実のような球体。
 不思議な木だ。季節によって顔を変える。冬の『四季の木』は特に綺麗だと有名だったが、これなら納得だ。まるで氷の彫刻のごとくそこに佇む大きな木。

「ウん、そうだね」

 ゼノも頷いたので、ボクたちは『四季の木』まで歩いた。思った通り、人が少ない。最近は冷えるので外で食べる人も減っているが、『四季の木』は相当な人気スポットなのでなかなか空いていない。でも、今日は空いている。
 今日は楽に食べる場所が見つかった。そうほっとすると、昨日同様、また見知った影を見つけた。今度は姉ちゃんではない。ほつれのないさらさらの桃色の髪を風になびかせ、膝の上に弁当を広げてる。『四季の木』の元でぴんと背筋を伸ばして、綺麗な動作でものを口へと運ぶ。その場の神秘的な雰囲気も相まって、一瞬だけ、本当にただ一瞬だけ、見惚れてしまった。

「あれ、朝日くん?」

 スナタはボクらに気づいたらしく、箸をとめ、顔をこちらへ向けて言葉を発した。

「久しぶり。そばにいるのはお友達? 初めまして。ⅢグループCクラスの、スナタです。よろしくね」
 スナタは座ったままでにこやかに自己紹介を済ませた。
「ワッ、わたしはゼノイダ=パルファノエです。ゴぐるープGクラスです!」
「パルファノエさんか、いい名前だね。良ければ隣どうぞ?」
「では、お言葉に甘えて。失礼します」
「そんなに固くしなくてもいいよ。気楽に気楽に!」

 こうも連日続くとなると、明日は東蘭か笹木野龍馬とでも鉢合わせそうだ。

「いい天気だね」
「そうですね」
「ハイ」

 今日は雲もなくて風もない。ただ痛いくらいの冷気が肌を刺激するだけだ。

「二人って、仲良いの?」

 ボクはゼノを見た。それはゼノも同じで、ボクらは顔を見合わせる。
「えと、たぶん?」
「オソラク」
「自信ないんだ? でも、一緒にお昼ご飯を食べるってことは、結構仲良いんじゃない?」

 そう思うのなら、なんでわざわざ質問して来たんだろう。

「喋ることないなあ。ね、なにか話題ない?」
 話題か。
「ゼノ、なにかある?」
「ふェっ?!」
 そんなに驚かなくても。
 ゼノはしばらくうんうんと唸って、ようやく絞り出すように口を開いた。
「きょウも花園セン輩とハ一緒じャナいんデすね」
「ん、ああ、日向? 声をかけようとは思ったんだけどね、教室の前の人垣が凄くてさ、諦めたんだよ。それに聞いた話によると、二人──日向と龍馬の間に不穏な空気が流れてるらしくてさ。そんな状態の日向を誘っても気まずくなる気がしてね」
「ケンカしたんでスカ?」
「いや、それはありえないよ。あの二人が喧嘩なんて、絶対にない」
 よほど自信があるのか、スナタは言い切った。確かに朝の会話は『喧嘩』ではなかったけど、どうしてそう思うんだろう?

「何があったかは、大体想像つくけどね」

 聞き取れるか聞き取れないかの狭間にあるような声でスナタは言った。どこを見ているのかわからない目は、一瞬、光を失ったように見えた。

 なんか、姉ちゃんも同じ仕草をよくしているはず。

「ああ、ごめん。なんでもない。ほら、食べよ! お箸が止まってるよ」

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