ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.290 )
- 日時: 2022/03/02 19:10
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: EabzOxcq)
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『お前、やっと一人になったな!!』
「悪かったよ」
放課後、ゼノと別れてボクは森に来ていた。ビリキナのことを思い出して、帰るまでに一度は出さないと怒るから、出しておこうと思って。というか、朝から放課後まで一度も出せないのはいつものことなんだし、そろそろ慣れてもらいたいんだけど。ボクと契約して何ヶ月経つと思ってるんだ?
『ったくよぉ。自由に動き回れないこっちの身にもなれ!』
ボクの鞄は、ジョーカーに渡された特別なものだ。ビリキナが放つ黒の魔力を鞄の中に封じ込める。ボクがビリキナと契約していることを悟られる要素を一つでも減らすためだ。ただ、鞄が開いている時はもちろん魔力ダダ漏れなので、ボクが閉めて、ロックする必要がある。ロックしてしまえば、ビリキナは自分では鞄を開けられない。
「ごめんってば。それより、今日は姉ちゃんが帰ってくるから、ずっとボクの部屋にいてね」
『酒用意しろよ! 酒!』
「わかってるよ」
姉ちゃんとの待ち合わせ時間まで、かなり余裕がある。これからどうしようか。
『そういや渡しそびれてたんだけどよ、これ』
ビリキナはそう言いながら、鞄の中をゴソゴソと漁った。そして取り出したのは、紙切れ。
『朝、人間共の間を通った時に渡されたんだよ。魔力の残り香からしてジョーカーだった』
「は? あの速度で?」
きもちわる。
『いいから読めよ。あいつが気味わりぃのは元からだ』
「それもそうだね」
ボクはビリキナから紙を受け取り、それを読んだ。
『最終ミッションのお知らせだよ。
今日日向ちゃんが戻ってくるんだって聞いたから、もう頻繁に君の家に行けないってことで、予定より早く伝えることになった。
ちょっと待ってね』
最後の一文が理解出来ない。どういうことだ?
そう首を捻っていると、急に、文章の一文字一文字が黒く光った。
「わっ!」
手紙からペリペリと文字が剥がれ、宙に浮いて渦を巻く。ボクより、いや、姉ちゃんの背よりも少し高い程度の位置から、螺旋を描くように下へ下へとくるくると規則的な動きをする。それはだんだんと歪んでいき、そして。
「結構それを読むまでに時間がかかったんだねぇ」
ジョーカーが現れた。
正直、びっくりした。声に出して驚きそうになった。でもそうしたらジョーカーが喜ぶことは知っているので、懸命に衝動を抑える。
「急に背後から現れるのは飽きたかなと思って、今日は凝った登場をしてみたよぉ」
「そういうの要らない。どうでもいい」
「ひどいなぁ」
「用件は?」
ジョーカーはクスクスと笑う。なんだよ、気持ち悪い。
「ボクがある組織に入っていることは、知っているよね?」
何を今更。そこから出た命令をジョーカーが伝えていたんだから、知ってるに決まってる。
「その組織の最終目的に、もうすぐで、ようやく踏み出すことができるんだ」
「最終目的?」
ただの組織でないことは明らかだ。リンのことも真白のこともそうだ。確実に正規ではない、裏社会と言うべきか。
「そう。だからね、朝日くん。君にはこれを渡しておくよ。はい」
はい、と言って、ジョーカーは握り拳をボクに向ける。ボクが手を差し出すと、解かれた拳から小さな棒のような物が落ちた。
「なにこれ」
見た目は円柱で、直径はちょうど片手で握って収まるほど。全体の長さは、ボクの手首から中指まで結んだ線分よりもやや短いくらい。先端には、一回り小さい円の突起がある。握る部分とそれは質感が異なっているように見える。
「ボタンだよ」
「ボタン?」
ボクは自分が着ているブレザーのボタンを見た。この二つ、絶対に同じものじゃないだろ。飾りボタンですらないだろうし、どうやって服に付けるんだ。
文句でも言ってやろうと口を開く前に、ジョーカーが笑いだした。
「ふっ、アハハハッ! 可愛いなぁ朝日くん、期待通りの反応だよ。アハハッ!」
「な、なにわらってんだよ!」
「いや、だってさ、アハハハッ!」
よほどおかしかったのか、ジョーカーの笑いが引くまで時間がかかった。そんなに笑うことでもないだろ。知らないんだから。
「はぁ、ごめんごめん。
『装置』って、わかる?」
?
「わかんないか。えーとじゃあ、『魔法道具』」
それならわかる。ボクは頷いた。
「これは【転移魔法】が付与された魔法道具だ。先端の丸い部分をおすと、元々設定されている場所に転送される。一度使うとそれっきりだから気をつけてね」
【転移魔法】を付与、か。魔法石といい、なんでもありだな。確かに【転移魔法】は発動時にいちいち魔法式を組み立てて発動するよりも予め用意してた方が楽かもしれない。でも、そもそも高位魔法を物に付与するということ自体が馬鹿げた話だ。そんなことが出来るなんて話、聞いたことがない。
「でねぇ、これをりゅーくんに触れながら押して欲しいんだぁ」
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