ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.32 )
日時: 2020/12/13 07:22
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: RadbGpGW)

 9

 しばらくして、フォード先生が起きた。
「あ……なんだ、花園。起きていたのか?」
 Ⅴグループの生徒より気を失っていた時間が長いのが気に食わなかったんだろう。自分に対して腹を立てた様子で、私に言った。
「私は先に行った生徒を追う。この場所なら、来るのはスライムくらいだろう。真白の体質もあるが、しばらくすれば笹木野たちも起きる。大丈夫だな?」
「はい」
 さっさと行けばいいのに。
 ピチャピチャと浅い水溜まりを踏みながら、フォード先生は走っていった。
「それで、何してるの?」
 私はリュウに声をかけた。
「え? いや、まあ」
 リュウは口ごもった。
「なんとなく、起きづらかったというか」
「ふうん」
 しばし流れる沈黙。
「日向、今回は、攻略するのか?」
「別に、しようとは思っていない」
「そっか」
 珍しく、リュウがあまり話してこない。
「どうかした?」
「え?」
「静かだから」
「それ、おれが普段うるさいってことか?」
「うるさくは、ないよ」
 私はリュウの目をじっと見た。
「うるさいのは、不快な感情。周りの声は不快だけれど、リュウの言葉は不快じゃない」
 リュウの顔が赤くなった。
 どうしたんだろう。健康優良児のリュウに限って発熱?
「ありがとう」
「なんでお礼を言うの?」
 よく、わからない。

 わからない。

「日向」
「なに?」
「えっと」
 リュウがなにか考えるような仕草をする。
「ここには来たことあるのか?」
 私はよく、世界中のダンジョンを出入りしている。ダンジョンは攻略してしまうと消滅するけれど、逆に言えば、攻略さえしなかったら消滅はしない。
 強いのがいるかどうか確かめたくて。もっと強くなりたくて。

 私よりも強い魔物がいるのか、確かめたくて。

「ない。出られるかわからなかったから、入らなかった」
「攻略しないと出られないところもあるからなー」
「もしかしたら、読みは当たったかも。追い込んだ方が、やる気を出すから」
「だから、《サバイバル》の場所をここに選んだってことか」
「うん」
 出られないとなると、出るために冒険者は必死になる。ボスさえ倒せば、出られるから。
 ここはダンジョンのレベルもそんなに高くないと言っていた。先生たちの考えが予想通りなのは、間違いなさそうだ。

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