ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.49 )
日時: 2022/03/10 13:15
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: uqhP6q4I)

 19

「日向!」
 耳元で、リュウの大声が、ガンッと響いた。
 けれど私はまだぼーっとしていて、視界の歪みも収まらない。
「しっかりしろ。おれがいる」
「……うん」
 私はよくわからない。どうして心配してくれるの?
 こんなこと、よくあるのに。大したことではないと、リュウは知っているはずなのに。
 だめ。いま考えると、頭痛がひどくなる。

「どこか、休むところを探そう」
「うん」
 てくてく。私はリュウに手を引かれ、ダンジョンを進む。
 あ、れ?
 くらくら。ぐらぐら。ぐらぐら。

 ぐら、ぐら。

 寒い、冷たい? なに、これ。
 頭が、痛い?

「日向!」
 地面に座り込んだリュウを、私は見上げた。
 倒れてしまったんだ。
「わるかった。だいじょ」
「あやまらないで」
 やめてよ。リュウは悪くない。いつだって、リュウは道を踏み外すことはない。
「あ、ああ。わかった。
 歩けるか?」
「平気」
「には見えないけど、な」
 リュウは優しく微笑んだ。
「無理はするなよ」
「するわけないじゃない」

 リュウたちに危険がない限り、私が無理をすることは決してない。いま危険があるとすれば真白だけ。
 あの子なんて、どうでも良い。
 リュウは目をぱちくりと開き、ぱちぱちとまばたきしたあと、くしゃっと笑った。
「そうだな。日向は面倒くさがりだしな」
 そして、握っていた私の手を引いて、私を立たせてくれた。
「ねえ、リュウ」
「なんだ?」
「向こう」
 私はダンジョンの先を指差した。
 そこは、真っ暗な空間が広がっているだけで常人にはなにも見えない。

 だけど、私たちは違う。

「あれって!」
 リュウも確認したようだ。
「どうする?」
 リュウは困ったような顔をした。
「どうするって、行くしか……いや。日向の回復もしなきゃならないし」
「私、ここにいようか?」
「なに言ってるんだ!」
 怒鳴られた。
「死なないよ」
 私はまっすぐにリュウを見た。
 リュウの顔が『驚き』を表した。その中には、『悲しみ』も混じっているように見えた。

「はいそうですかとは言えねえよ」
 リュウがボソッと呟いた。

「?」
「幸い、蘭もスナタもいるんだ。あっちはあっちでしてくれる」
 リュウが良いならそれで良い。
 私はあいつらなんてどうでも良いんだ。リュウが救いたいなら救うし、放っておくなら私もそうする。
「まだふらふらするか?」
 心配そうな目が、私の目を覗き込む。
「ちょっとだけ。活動可能範囲内には入ってる」
 リュウはほっと息を吐いた。
「なら、行こう。ゆっくりで良い」
 私は頷いて、リュウに手を引かれるがまま、歩き出した。

 しばらく歩いて、蘭と遭遇した。
 ぱっとリュウが手を離す。
「スナタや真白さんは?」
「教師たちに保護されたよ。ったく。守ったら訓練にならないだろうが」
「この状況なら、仕方ない」
 私の言葉に、蘭は「それもそうか」と呟き、惨状を再確認した。
 紫色の毒ガスが辺りに充満していた。無数の生徒たちが、血を吹くなりして、倒れている。目は見開かれ、充血し、恐ろしいものを見ているかのようだ。

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