ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.53 )
- 日時: 2021/03/15 14:36
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: oZokihYy)
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「おーい! 日向!」
階層にぼわんぼわんと響く、スナタの声。
教師たちが、もう、危険性が残されていないと、判断したようで、ぞろぞろと虫のように生徒がダンジョン攻略を再開した。
「日向ってば!」
「なに?」
「返事くらいしてよ!」
「いま、した」
「そうじゃなくて!」
スナタは変なところで言葉を切った。少し待ってみるけど、なにも言わない。
「なに?」
するとスナタはため息を吐いて、
「ま、いいや」
とだけ言った。
納得したわけではなかった。でも、スナタが良いならそれで良い。
「そういや、リュウはどうした?」
蘭がキョロキョロと辺りを見回し、リュウがいないことを確認した。
「ライカ先生が連れていった」
教師たちによる空気の点検が始まったとき、彼女は真っ先にこちらに、リュウのところに来て、リュウを連れていった。わざわざ、連れていった。
わざわざ。
リュウに、無駄な手間をかけさせた。
用件は、先程の【害物排除】に関してだそうだ。周りにいた生徒も巻き込んだと言うことで、注意がしたいとのことだった。
そんなことで。
【害物排除】は高度な魔法だ。操るのは難しい。それでいてリュウは、巻き込んだとはいえ、生徒の誰一人として怪我を負わせることはなかった。『偶然誰も怪我をしなかった』など、あり得ないのだから、リュウが注意を払って魔法を放ったことはわかるはず。
注意をするなら、この場でも問題ない。
どうせあの人は、私のことなど、見ていないのだから。
なのに。
「日向、聞いてる?」
「?」
私がスナタの声を聞き漏らすことはないのに。
聞こえ、なかった?
頭から、ざあざあと嫌な音がした。
「真白が一生懸命話してたのに、聞いてなかったの?」
ああ、なんだ、真白か。話していたのは。
「うん」
「まったくもう! リュウはいつ戻ってくるのか、わかる?」
私は少し沈黙した。
「もう、そろそろ、話が終わる」
「そっか。じゃあ私たちも攻略に進めるね」
「そうだな。さっさと来ねえかな、あいつ」
蘭がじれったそうに言う。そして周りをぐるっと見回して、リュウの姿を見つけた。
「お、来たな。
おーい! 走れ!」
リュウは聞こえないふりをして、歩くスピードを変えない。
「あいつ……」
「どうどう」
怒る蘭を、スナタが静めた。
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