ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.54 )
- 日時: 2021/03/19 13:36
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 521Bpco1)
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「ねえねえ、あれ、なに?」
スナタが奥を指さし、首を捻って蘭を見た。
真白は見えないのか、眼鏡を指で押し当てながら眉間にしわを寄せ、スナタの指の先を凝視している。
「んん? えーっと、像だな。石像かな?」
どう思う? という意味を込めて、蘭がリュウを見る。
「台に文字が書かれているな」
「えっ、そこまで見えるのか?」
「ああ。流石に何て書いているかまでは見えないけどな」
「そこまで見える必要はない」
石像自体見えてない人もいるのだから。
「日向の言う通りだよ。リュウは異常だよね」
「はっはっは。何をいまさらなこと言ってんだよ」
リュウがスナタの嫌味を笑い飛ばした。
「てかさ、文字って、おれたちが使ってる言葉なのかな?」
蘭が言う。確かに、その疑問は浮かぶ。石像の前では、何組かの班がずっとそこに留まっている。考えられる理由は三つ。文章が、読めない、理解できない、判断できない。
「それは問題ないだろ」
うん。リュウの言葉は正しい。ダンジョン内に記されている文字は、誰にでも読める。
否、誰にでも理解できる。
言葉での説明は難しい。ダンジョンに記されている文字は不思議なもので、文字を文字だとしか認識できない。一般的な読解のように、文字を読み取り、情報を把握するのではなく、ただ、見て、理解する。それだけ。
故に、なんと記されているのかを理解することだけなら赤子でも可能と言われている。その内容を理解できるのかはさておいて。
もっとも、記されている文字が読めなかったとすれば、そこからダンジョンの研究は進められる。しかし、どんな書物からも、『見ただけで理解できる文字』などは見つからなかった。
「ダンジョンの文字は特殊だからな。見たところ、奥に扉が三つあるから、その中から一つを選べってことが書かれているんだろ」
リュウが人差し指を立てて言う。
「なるほどお」
スナタがあごに手を当て、にまっと笑う。
「面白そう! わたし、先に見てくる!」
「転ばないでね」
私はスナタに声をかけた。
「失礼ね! 転ばないよ!」
そうかな、どうだろう。
スナタは、危なっかしいから。
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