ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.55 )
日時: 2021/03/19 13:37
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 521Bpco1)

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 私達が像の前に着く頃には、多少、溜まっている人は減っていた。
「あ、きたきた。ねえ、みんな、見て」
 言われなくても、見る。
 像は、かわいらしい少女を模した物だった。ただし、両目はえぐりとられ、表情は無く、額には蒼い水晶がはめられている。

 これは、見なくていいものだ。

「日向」
 リュウの気遣いのこもった、優しい声。
「平気」
 私はそれだけ言うと、台の文字が見える場所へ移動した。私に気づいた生徒の内の何人かは、私を、私の目を見て、気まずそうにそっぽを向く。
 台にはこう書かれてあった。

『玉の扉へ進む者、王への謁見の権利を持つ者
 石の扉へ進む者、王を恐れて逃げる臆病者
 蒼の扉へ進む者、王へ忠誠を誓う者』

 玉の扉は、正面の、真珠で縁取られた鉄の扉。石の扉は考えるまでもなく、右の石で出来た扉。ということは、蒼の扉は。
 私は視線を左へずらした。
 半透明な大きな蒼い水晶が、そこにはあった。これが、蒼の扉と言うことだろう。
 おそらく、玉の扉がダンジョン攻略への道で、石の扉がダンジョン脱出の道。そして……。
「蒼の扉の意味が、わかりません」
 真白が言った。
「だよねえ。この女の子の額の水晶が関係してるとは思うけど。
 あれ? この子、両目がないね」
 そして、スナタは小さく呟く。
「ああ、『呪われた民』か」
 直後、ハッと口を両手で覆う。
 その理由はわかってる。
「気にしなくていい。
 それより、どっち?」
 私は意見を尋ねることにした。
「そりゃあ、玉の扉だろ。蒼の扉は意味わからねえし、臆病者になんかなりたかねえ」
 リュウは蘭の言葉にうんうんと頷き、他の誰も、別の意見を口にしない。
 なら、これで決定だ。
 私達はなんの合図も出すこと無く、同時に、玉の扉に向かって、一歩を踏み出した。

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