ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.56 )
日時: 2021/04/16 18:54
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)

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 そういえば、ここはダンジョンだったっけ。
 私は目の前の光景を見ながら、そんな今更なことを考えた。
「うわあ、すっげえな」
 蘭が楽しそうに呟く。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。どうするの? 助ける?」
 スナタが提案する。
「でも、あのなりは冒険者だろ? 要らないだろ」
 リュウはそう言う。
「で、でも、困っていますよ。怪我も深そうですし」
 真白が控えめに訴える。

 レーナンという魔物が存在する。

 レーナンは半人半魚の姿をしている。上半身は人間の女のようだが、体全身が水で出来ている。目にあたる部分は鋭くひかり、しつこく追い回してくる厄介な敵だ。
 そしてそのレーナンの群れが、冒険者パーティを襲っていた。レーナンによる攻撃魔法にやられたのか、深傷ふかでも負っているようだった。
「レーナンって、何が効くんだっけ? 風で吹き飛ばせばいいの?」
「そんな簡単じゃ、ない」
 私の言葉に、スナタは頭を抱える。
「じゃあどうするのよ!」
「助けるの?」
「困ってそうだしね。どうせわたしたちも通るんだし」
 ふうん、そうなんだ。助ける、困ってる、か。

 理解は、する必要、無いな。

「炎の球でもぶつけたら蒸発するかな?」
「ええー、どうだろ」
 そんな会話をしていると、レーナンの群れの目が、突如こちらへ向いた。真白の体質の効果が出てきたのだろう。
「あわわわ」
 真白があわてふためく。
「落ち着け、レーナンなんて、たいした魔物じゃない」
 蘭はそう声をかけると、軽い動作で巨大な炎の球を投げた。

 ズオオオオオッ

 炎の球は音速よりも少し遅いくらいの速度でレーナンの群れを直撃した。

 キィィィィィ

 甲高い断末魔をあげ、レーナンのほとんどが消滅し、カランカランと魔法石が落ちる。
「おお、思ったより倒せたな。あとは三体か。それくらいなら、あの人たちでも大丈夫だろ」
 蘭の言う通り、基本群れで行動するレーナンは、仲間の大多数を失ったことにより勢いが衰え、あっという間に全滅した。
「大丈夫ですか?」
 蘭とスナタが先に駆け寄り、声をかける。
「あ、ああ。助かったよ。ありがとう」
 パーティのリーダーらしき男が頭を下げる。おそらく、剣士だ。
 パーティのメンバーは計三人。この剣士の男と、スキンヘッドの斧を構えた戦士の男、そして白魔術師の格好をした女。それなりに経験は積んでいそうだが、まだ青そうだ。
「ところで、さっき向こうにいた狼はどうしたんだ?」
「おおかみ?」
「ほら、さっき蘭が『晩飯だー!』って意気揚々と狩ってたあれじゃない?」
 剣士は驚いた風に言った。
「あの化け物を、倒したって言うのか?」
 ……訂正する。ただのど素人だ。
 呆然とする剣士に、白魔術師は何かをささやいた。すると剣士は青ざめ、

 私を、見た。

 リュウは私をかばうように前に出ると、先程とはうってかわり、パーティを睨み付けた。
「は、白眼」
 だったらなに。
「まさか、『呪われた民』か?!」
 剣士は叫ぶ。
「この野郎!」
 リュウは怒鳴ると、アイテムボックスから両手剣を出し、構えた。
「リュウ、そんなこと、しなくて良い」
「日向が良くても、おれが許さねえんだよ!」
 どうして?
 私は、よく、わからなかった。
「あー、もしかして、『白眼の親殺し』の子じゃないか?」
 この場の空気をわかっていなさそうな、戦士の声。
 剣士と白魔術師はぎょっとした。
「この馬鹿! 状況を考えろ!」
「そうですよ! 思っても内に留めるだけにしてください!」
 うるさい。

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

 頭の中で、音がする。

 こいつらは。

 い ら な い そ ん ざ い だ

 だって、リュウを、怒らせた。
 リュウに不要な感情を抱かせた。
 万死に値する。

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