ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.57 )
日時: 2021/03/19 13:44
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 521Bpco1)

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「『白眼の親殺し』って、八年前の、あの事件ですか?!」
 真白が叫んだ。
「まさか、そんな、まさか。ただの噂だと思ってたのに」
 思ってたのに、なに。
 これは、なに。
 気持ち悪い。
「真白。落ち着いて。あとで話せるところは話すから、ね?」
 スナタのその言葉に、剣士は呆れたような、信じられないものを見るような、そんな目をした。
「はあ? こいつが人殺しって知ってて、一緒にいるのか?」
 その瞬間、リュウが剣を振った。

 カラァン

 まず剣士の剣を弾き飛ばし、甲冑の胸の部分を剣で押した。
「うわっ」
「黙れよ、なあ」
 久々に聞く、重く、低い、リュウの声。
「なんだよ、お前らも同類ってか? 人殺しなのか?! そうなんだろ!」
 なに、言ってるの。
 助けられていて。助けてもらっておいて。
 考えるまでもない。
 人間はそういう存在だ。
「リュウ、いいよ。そんな奴らの血で、手を汚すことない」
「殺しゃしないよ。両手足を切り落とすだけだ」
「結局死ぬと思う」
 理性が、完全に飛んでいる。
「ダンジョンは、全て自己責任。ダンジョンの中でなら、殺生は揉み消され、無かったことにされる」
 私は淡々と言う。
「だけど事実は変わらない。世間が知らなくても、この場にいる私達が真実を知っている。
 ねえ、リュウ。あなたはまだ汚れてないの。いつかは汚れてしまったとしても、それはいまじゃなくて良い。
 だから、そんな奴らほっといて、先に行こうよ」
 久しぶりにこんなに話したな。
 その甲斐あって、リュウの耳には、私の声は届いたようだ。
「……日向は、それで良いのか?」
 リュウは剣士から目を背けないものの、声からはいくらか怒りは消えていた。
「うん。リュウが手を汚すことはない」
「そっか」
 リュウはそう言うと、剣をしまった。
「日向がそういうなら、それで良い。
 悪かった。行こう」
 そして、リュウは歩み出した。
「蘭、気分悪いから、休んでから行く」
 だけど、私は行かなかった。
 蘭は心配そうに私を見たが、優しく、悲しく笑い、「そうか」とだけ言った。

 リュウ。あなたが汚れることはないの。

 あなたは私の『光』なのだから。

 あなたは私の『救い』なのだから。

 汚れてしまっては、もうもとには戻らない。

 だけど私は違うの。

 だから、だから。

 ……気分が悪い。気持ちが悪い。
 取り除かなきゃ。『虚無』の理由を。
 『私』が『わたし』になるために。

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