ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.58 )
- 日時: 2022/10/06 05:25
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 4CP.eg2q)
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「……」
私はずっと、剣士たちをただ見つめ続けている。
「なんなんだよ、さっきから」
剣士は立ち上がった。
私が一人になったせいか、剣士の威勢が良い。
「怒ってんのか? 一人前にさあ。なあ、人殺し」
この人は、私を罵っている、ということになるのだろうか。
だとしたら、なぜ。
私が人殺しだから? 親を殺したから?
そう考えると、笑いが込み上げた。
「ふふっ」
私は笑い声をもらした。
「は?」
剣士は訳がわからなそうだ。口をぽかんと開け、立ちつくす。
私は笑みを崩さぬまま、右の手のひらを三人に向けた。
「魔法か! ミエル!」
ミエルとは、あの白魔術師の名前だろう。
「はい! って、あれ?」
ミエルは杖を構えたが、すぐに、拍子抜けとばかりに肩の力を抜いた。
「どうした?」
「いえ、あの、魔力を感じないんです。彼女から」
「それはあのローブのせいじゃないか? あれは気配消しのアイテムだろう?」
へえ、これのこと、知ってるんだ。
「ですが、気配消しにも限度があります。顔や手など、ローブから出ている部分もありますし」
なるほどね、一般的な知識までか。
というか、早く終わってくれないかな。待ってあげる義理無いし。
「とにかく、たいした魔法はこないと思います」
本人の前でそれを言うか。
今度は私は苦笑した。
そして。
「闇魔法【能力奪取】」
丁寧に魔法名を告げ、魔法を放った。
今回奪うのは、身体能力。それも、逃げられない程度だから、特に上級というわけでもない。
「え?」
ミエルが魔力の防壁を作る前に魔法を放ったので、三人はこの魔法をもろに受けた。
どさりと、体が崩れ落ちる。
「全員が詠唱で魔法を発動させると思わない方がいいよ。私みたいに無詠唱が扱える魔導師だっているんだから」
ミエルは聞いているのかいないのか、座り込んだ状態で、ただただ目を見開いている。
「まあ、これからなんて無いけど」
その言葉にゾッとしたのか、ミエルは顔を真っ青にした。
「さっきと性格が違くねえか?」
先程と同じように、戦士の呑気な声が重い空気に水を差す。
「私?」
「ああ」
「そう?」
「ああ」
「……へえ」
答える気はないので、それで済ませることにした。
「そういえば、あなたが私を『白眼の親殺し』だって言ってたね。聞くけど、私にそれが出来ると思う?」
私は戦士に近づいて、尋ねた。
戦士はすぐに答えた。
「さっきから、お前、俺たちを殺すみたいな雰囲気を出しているけど、全然殺気を感じないから、ただの腰抜けだと思う」
「そっか」
私は笑顔で言葉を返し、戦士の左腕を蹴り飛ばした。
紅い弧を描き、左腕は宙を舞う。そこまでは美しいのに、地に落ちるときは、べちゃりと嫌な音がする。
「うわああああああ!!!!」
戦士はのたうち回り、激しく動揺する。
「そんなに驚く? 難しいけど、誰にでも出来ることだよ、これ。角度と力に気を遣えば。やりやすい靴とかも探せばあるしね」
私はとりあえず、もう片方の腕も飛ばしておいた。
「うあああああああああ!!」
「うるさいなあ」
うーん。まだ切り口が綺麗じゃないな。関節じゃない骨の部分で折れて、骨がむき出しになっている。
私は軽く戦士を蹴り、大きな体をどかして、今度は剣士に近づいた。
「ひぃっ」
「こらこら。さっきの威勢はどうしたの?」
目の高低差に威圧感を感じるのかと思い、私は屈み、視線を水平にした。
「あなたにも聞きたいことがあるの。いいかな? 拒否権はないよ。
私が人殺しだから、あなたは私を罵った。それはなぜ?」
「は?」
こいつ、世のことはわからないことばかりか。
「あなただってモンスターを倒すでしょう? 言い方を変えると、殺すでしょう? あなただって命を奪うという行為をしているのに、どうして私を罵るの?」
剣士は叫んだ。
「人を殺すのとモンスターを倒すのとでは訳が違うだろ! 現に、人殺しは犯罪で、モンスター討伐は正義だ!」
「うん、そうだね。私もそう思う」
「は?」
「だから、私はリュウの殺人を止めた。私が代わりに、殺すことにした」
絶句する剣士をよそに、私は言葉を続ける。
「だけど、私はわからない。どうして罪の重さが違うのか。命の重さが違うのか。魂の価値は等しいのに。かつて虫だった魂も、人間の体に入ることだってある。逆もしかり」
「俺だって知らねえよ!」
剣士は怒鳴る。
「そっか、残念。じゃあ、もう生かす必要はないか」
私は剣士の顔に手を伸ばした。
「や、やめろ、やめてくれ!」
ぶしゅり。鈍い音がする。
目の眉間に近い方から、親指をいれ、そこから目玉をほじくりだした。
ぶしゅり。ぶしゅり。ブチッ
「あああああっっ!」
剣士は痛みに悶えるけれど、魔法によって動けない。
ぶしゅり。ぶしゅり。ブチッ
もう片方も、取っておいた。
「ああ!! ああ、うああああっ!!」
「獣みたいだね。人間らしく話したら?」
私は二つの目玉をぽいっと投げた。どこかの水溜まりか、あるいは川に落ちたのか、ぽちゃんと小さな音がする。
「あ、あ、」
声のした方を見ると、ミエルが肩を震わせ、怯えていた。
「大丈夫。殺してないよ、まだ生きてる」
安心させるために笑って見せたけど、逆効果だったみたい。
「あ、そういえば、名前を知れたのはあなただけだね。知りたくもないから別にいいけど」
「ど、うして?」
「ん?」
「どうして、私たちを殺すんですか? あなたを罵ったから? そうやって、いままでも、人を殺してきたんですか?」
私は一瞬キョトンとして、すぐに笑った。
「あははっ! そんなまさか。私、そんなに自己中に見える?」
「じゃあ、なんで?」
血みどろの手を顎に当て、たった一言、私は言った。
「リュウを怒らせたから」
ミエルは震える声で、言葉を絞り出した。
「そんな、ことで」
「いやいや。私にとっては十分すぎる理由だよ」
私はひらひらと手を振った。
「リュウは温厚だし、滅多なことで怒らないからね」
「じ、じゃあ、これまでも同じような理由で、その、殺しを?」
「うん、そりゃね。あなたたちだけじゃない、そこはちゃんと平等にしてるよ。体の一部を奪って、じわじわ痛め付けるやり方も一緒。
でも、あなたはどうしようかな。綺麗な顔と体してるし、奴隷として売った方が良いのかな」
「ひっ」
「あはは。大丈夫、冗談だよ。私の魔法を見せちゃったからね。
私、面倒なことからは逃げるって決めてるから。力も公開しないことにしてるの。
ねえ、ここまで話して、生きれば、満足?」
私はアイテムボックスから短剣を取り出した。
私はそれを逆さに構え、腹に突き立てる。
ザシュッ
ビシャッ
何度目かわからない血飛沫を、体中に浴びる。
ミエルは恨めしそうに私を見つめたあと、どさりと倒れた。
「あ、いけない。私の魔法のことも聞いとけば良かったかな。
まあ、いいか。たぶん予定通りに進んでるでしょ」
それよりも、短剣とローブを洗わないと。体は手と顔、ローブに出てる部分しか汚れていないから、良いとして。
久々にこんなに汚れたな。
私はちらりと三人を、三体の死体を見た。
「ちぇっ。もう少ししぶとかったら、もっと楽しかったのに」
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