ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.60 )
日時: 2022/03/10 14:29
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: uqhP6q4I)

 28

 私たちはひとまず、蘭たちの元に戻った。いや、そこには、蘭しかいなかった。
「おお、戻ったか。
 あー、その、えっと」
 蘭は私の姿を見て、口ごもった。
「うん」
 私は蘭の言いたいことがわかったので、それだけ言った。
「スナタと真白さんは? 一緒じゃないのか?」
 リュウは、蘭に尋ねた。
 すると蘭は、苦々しい表情になり、吐き捨てるように言った。

「真白はスナタに『白眼の親殺し』について聞いてる。向こうにある川沿いの奥にいる」
 蘭は右奥に向かって流れている川を指した。
「そっか、まあ、仕方ないよな」
 リュウはそう、諦めたように、ため息混じりに呟いた。
「おれじゃ感情的になっちまうから、スナタにいってもらった」
「そうカリカリすんなって。気持ちはわかるけどさ」
「結局、真白も他の奴らと一緒なんだよ。
 よってたかって、日向を攻める、怯える」
 どうでもいいよ、そんなこと。

 でも、そっか。
 じゃあ、あの子ももう、要らないや。どうせ、面倒なことになる。

「行ってくる」
 私は二人にそう告げ、二人の気配がする方へ向かった。
「ああ。さっき行ったばかりだから、話も始まったばかりだと思うぜ」
「さっき? おれたちはかなり前に三人から離れたよな?」
「真白がなかなか話さなかったんだよ。ずっともじもじしてやがる」
「すっかり嫌いになったんだな、お前」
 二人が私の背後で、そんな会話をしている。

 ……きらい?

 私は二人の声が聞こえるところまで近づくと、歩みを止めた。
「じゃあ、真白が知ってるのは、『白眼の親殺し』を日向がしたってことと、八年前にあったってこと、名前の通り、その内容が親殺しだってこと、でいい?」
 そこまでしか話は進んでいないのか。
「はい。あくまで、噂に聞いた程度ですが。
 それで、その、本当なんですか?」
「ん? どれが?」
 スナタは笑顔で問い直す。
「花園さんが、ひ、人、殺しって」
 真白はひどくおどおどしている。
 スナタはかなり間を空けて、うなずいた。
「うん、そうだよ。日向は、人を殺してる」

 真白の顔が真っ青になった。
「日向はね、昔っから生活環境が良くなかったの。わかるでしょ? 左の目の、白色が原因。聞いた話だと、お母さんからの虐待、特に、ネグレクトが酷かったんだって。決定的な動機は私にもわからないけど、積もり積もった不満とかじゃないかな?」
「じゃ、あ、わたし、ずっと、人殺しと一緒にいたの? そんな、いやああっ」
 真白は頭を抱え込み、うずくまる。

 スナタはそんな真白を、まるで虫でも見るような目で見たあと、すぐに笑顔に戻り、優しく言った。

「ごめんね、すぐに言ってあげられなくて。日向にも日向の事情があるから、言うに言えなかったの」
 ごめんね、ごめんね。スナタは何度も真白に言う。
「日向がバケガクにいる理由は、精神異常。精神の矯正って名目で入れられてるけど、本当は違う。
 人を躊躇無く殺せる人って希少だから、殺人兵器にしようって魂胆なの。」
「へっ?」
「ああ、親を躊躇無く殺したってことじゃないよ? いつかはそうなるようにしようってこと。
 だけどまあ、知っての通り、日向ってあんな感じで、なんの能力にも秀でていないでしょ? だから、なかなか教師陣の思惑通りにならないってのが現状」

 真白はまだ、ぶるぶると震え、怯えている。
「そんな。学園が、そんなこと」
「だから、日向が『白眼の親殺し』の犯人だって言っても、学園側から潰されるよ。そんなことしないだろうけど、忠告しといてあげる」
 真白は顔を上げた。
「どうして、スナタさんや他のお二人は、花園さんと一緒にいるんですか? 皆さんも、おなじように」
 一緒にしないで。
 私はすぐにでも真白の前に出て、そう言いたかった。でも、すんでのところで止めた。
 前に出てしまったら、私は何をいうかわからない。もしかしたら、隠していることも口走ってしまうかもしれない。もしかしたら、殺してしまって、あとになって私の力が学園中に広まってしまうかもしれない。

 私は、もう嫌なんだ。
 私は、逃げると決めたんだ。
 私は、私は。

「そうだなー。私は人殺しはしたことないかな。他の二人は知らないけど。
 でもね、真白。人殺しってだけで、差別するのはどうかと思うよ。人殺しにだっていい人はいるし、人殺しじゃない人だって、悪い人はいる」
「でも、でも! 人を殺せる人は、酷い人です!」
「なら、世のため人のために人殺しをする兵士たちはどうなるの? あの人たち全員、悪い人?」
 さとすように、なだめるように、言い聞かせるように、スナタが言う。
「それ、は」
「違うよね。正義の殺しか悪の殺しか。罪になる殺人と罪にならない殺人の違いはそこだって人は言うけど、私はそれは違うと思う。
 だって、正義か悪かだなんて、世間が決めるものじゃないし、そもそも決められるものじゃない」

 スナタはにっこり笑った。

「真白。たぶん、あなたはもう、わたしたちのパーティにはいられない。どうする? 出ていく? それとも、今回の《サバイバル》が終わるまでは、わたしたちと一緒にいる?」
 絶句する真白をよそに、スナタは続ける。
「あ、違うか。元からあなたはパーティの一員じゃない。
 まあ、この事はおいといて。もしいますぐ別行動したいって言うなら、わたしから先生に言うよ? 一緒に行こう」
「パーティ?」
 真白はやっと口を開いた。
「そう。パーティ。わたしたちはパーティを組んでるの」
「そんな、それじゃあ、わたし、わたし」
 いまにも悲鳴を上げそうな真白。
「わたし、出ていきます。出ていかせてください」
「懇願しなくたって、要望通りにするよ。じゃあ、いこっか」

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