ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.62 )
- 日時: 2021/04/01 18:12
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)
1
さらさらさら。川の流れる音がする。
じゃぶじゃぶと、私は血にまみれたローブを洗う。
はじめは川は真っ赤に染まっていたけれど、だんだん赤色は透明になってきた。
ごそごそごそ。
急に、これまでなかった音がした。私は音がした方向を見た。音の根元は、私のリュックだった。
『ぷはぁっ! あっつーい! なんでえ?』
急にうるさくなった。
「何してたの」
リンはキョトンとした。
『寝てた』
「ずっと?」
『うん』
私は、はあ、とため息を吐き、作業に戻った。
『ねえ、ベル。暑いよおー』
『仕方ないでしょ。たぶんここは、火山地帯なのよ』
『火山ってなに?』
『火山っていうのは……』
ベルは何をしていたんだろう。まさかベルまでずっと寝ていたとでも言うのだろうか。
ずいぶんとローブの汚れが落ちた辺りで、リンが私のそばへ来た。
『何してるの?』
「洗濯」
『それはわかるよ。何洗ってるの?』
「ローブ」
『ろーぶ?』
「うん」
すると今度はベルが、呆れたように言った。
『またやったの?』
「うん」
ベルは腰に手を当て、仁王立ちの格好をした。
『そんなにポンポン殺しちゃダメって言ってるでしょ! 死んじゃったらそれまでなのよ?』
「うん」
『うん、じゃない! まったくもう』
そう怒るベルに、リンが尋ねた。
『ベル、殺すってなに?』
『命を消滅させることよ』
精霊は、無知な存在。だからだろうか。リンは、私が殺しをしたと知っても、いまいちぴんとこないようで、私を恐れたり、怖がったりは、しなかった。
『ふうん。
あれ、みんなは?』
「向こうの温泉」
私は顔も上げず、方角も示さなかった。けれど、ベルがその温泉を見つけ、場所をリンに教えた。その場所はそのままの位置では見えないが、少し移動すればすぐに見つけることが出来る。
『あれかあ。日向は行かないの?』
「うん」
『どうして?』
「必要ない」
向こうには、他の生徒も集まり、雰囲気は宿泊学習の時のようだ。そこそこ距離があるが、賑やかで楽しげな様子が、こちらまで伝わってくる。
そもそも三人が向こうへ行ったのも、スナタがお風呂に入りたいと言い出したからだ。
時間の効率を考えて、私がローブを洗っている間に体を休めてくれば良いと、提案したのだ。
『三人一緒に入ってるのかな?』
リンの何気ない言葉に反応し、ベルは顔を真っ赤にした。
『そんなわけないでしょ!? ちゃんと男女で分かれてるわよ! ほら!』
『ほらって言われても、私には見えないよ』
ベルは必死になってリンに向こうの状況を説明していた。そんなにむきになる必要はないと思う。
『そ、それにしても』
ベルは私を見た。
『日向もここ数日お風呂に入ってないでしょ? 魔法で綺麗にしてるとはいえ。思春期でしょ? いいの?』
「思春期なのは年齢だけ」
私はたんたんと答え、ローブを洗う手は止めない。
『そういえば、日向の年齢って聞いたことなかったね』
「うん」
リンは少しむっとしたようだ。理由は不明。
『何歳なの?』
私は少し間を空けてから答えた。
「三十五歳」
『えっ?!』
『日向は天陽族の血が流れてるのよ』
『てんよーぞく?』
「ベル」
私は手を止めた。ベルを見ることはしなかったけど、ベルは私の一言で察したようだった。
『また今度教えてあげる。
ねえ日向。血を洗ってるってことは、もしかして、この水は冷たいの?』
「違う。私が冷やしてる」
『水浴びしていい?』
「うん」
ベルより先に、リンが叫んだ。
『なんだあ! それを早く言ってよお!』
そう言うや否や、リンは川に飛び込んだ。
流されたりしないかな。
『リン! もっと上流に行かなきゃ! 血で汚れるわよ!』
ベルも慌てて川のなかに入っていった。
ローブはすっかり綺麗になり、水面には、私の顔が映し出される。
頬に血がついた私の顔。
ごし、ごし。
もう乾いてしまって、強くこすらないと血は取れない。
手が水に濡れていたからか、頬の血はすぐに取れた。
ごし、ごし。
それでも私は、何度も頬をこする。
何度も、強く。
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