ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.63 )
- 日時: 2022/03/12 16:30
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: uqhP6q4I)
2
私はローブを乾かしながらスナタに言った。
「わざわざ、着替えたの?」
「え? うん」
スナタは言葉を続ける。
「だって、せっかくお風呂に入ったんだもん。入浴と着替えはセットでしょ?」
「知らない」
「というか、本当によかったの? 日向も、今からでも入ってきたら?」
「しつこい。必要ない」
それに。
「私は着替えは持ってない」
スナタはたった今、自分で二つをセットだと言った。私はそのうちの一つを行えない。
「あきらめて」
するとスナタは、目を丸くした。
「ええっ、持ってきてないの?!」
「洗浄魔法で着たまま洗えるから」
それに、今私が着ているこの服は、弱いながらも汚損防止の効果魔法を付与している。上からローブを着ているから、なおさら着替えは必要ない。
「えー。日向ならアイテムボックスの空きは何十個もあるでしょ?」
「スナタ、それ、皮肉が入ってないか?」
少し遅れてやってきた蘭が言う。
「なんのこと?」
とぼけた調子でスナタが蘭を見た。
何十ではないのだけれど。
まあ、いいや。
「今日はこの辺で休むか?」
リュウの提案に、私たちは頷いた。
「そうだね、お風呂にも入ったことだし」
スナタはそう言うなり、蘭に言った。
「ねえねえ、あの狼の肉、出して」
「わかったから急かすなって」
蘭が呆れたように言いながら、アイテムボックスから肉を出した。
「捌くから、貸して」
私は短剣を手に取り、蘭に言った。
「そのローブ、洗ったばっかだろ? おれがやるからいいよ」
蘭こそ良いのだろうか。
「汚れるよ」
蘭はにやっと笑った。
「おれの獲物だ。最後までおれがやる」
その表情は、本当に楽しげで。
気を遣っている、ということでは無さそうだった。
「なら、いい」
私は肉の処理を蘭に任せた。蘭の処理スキルは中々のものなので、出来栄えは問題ない。
「スナタは薪を組んどいてくれ。前に使ったやつ、残ってるよな?」
「うん、たくさんあるよ」
「じゃあ頼んだ」
「はーい」
二人は自分の役割をこなすべく、作業に取りかかった。
「最近、肉と魚しか食べてないよな」
することが思い付かなかったのか、リュウは私に話しかけた。
「仕方ない」
それしか食材がないのだから。前に手に入れた≪ジャンカバの実≫も、とっくに底を尽きてしまった。
びしゃっ
「うわっ」
リュウが飛び退いた。
みると、リュウが立っていた場所に、血がついていた。
「おー、わるいわるい」
「わざとじゃないだろうな」
「あっはっはっはっ」
「否定しろよ。
はあ」
リュウはため息を吐いた。蘭は全く反省していない。
「暇なら、散歩でもしてきたらどうだ? 特に日向、休んでないだろ」
「必要ない」
「知ってる」
蘭は苦笑いした。
「でも、行ってこいよ。たまには良いだろ。見回りがてら。な?」
な? と言われても、困る。
『日向! 行こうよ!』
リンが目を輝かせて、私に言った。
「行きたいなら、行けば良い」
『私が迷子になったらどうするの!』
「ベル」
私はベルに、リンについて行くよう目で伝えた。
『わかったわ。リン、行きましょう』
『えー。日向も行こうよー』
「断る」
『なんでよお!』
「勝手に遊んで、戻ってきて」
きりがないので、ベルにそれだけ言うと、私は黙った。
『むうううう。もういいもん!
ベル、行こう!』
リンはなぜか怒ったようで、やや速いスピードで飛んでいってしまった。
リィンリィンと、涼やかな鈴の音が、静かに響く。
『あ、待って!』
ベルが羽を動かし、シャランシャランと音が続く。
二人の姿が完全に見えなくなると、リュウが言った。
「あー、で、どうする?」
「?」
「散歩、するか?」
リュウはわずかに私から目線をそらし、気まずそうに頭をかいた。
「気まずいなら、無理して行くこと、ない」
私の言葉に、リュウは、焦ったように早口で言う。
「いや! 気まずいとか、そんなこと」
ない、までは言わなかった。やはり、気まずいのだろう。
「私に休息は必要ない。見回りなんてしなくても、モンスターが近くにいないのはわかる。リュウが無理して私と一緒にいることない」
私の先ほどの行動が、リュウの気分を害してしまったのだろう。それなら、ある程度、距離をおいたほうがいい。
そう思ったのだけれど。
「ちがう!」
リュウは、慌てているのか悲しんでいるのか、よくわからない表情で、私に言った。
「あー、そのー」
わずかな時間、リュウは私の目をみたあと。
「あたまひやしてくる!」
そう叫び、どこかに向かって駆け出していった。
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