ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.64 )
日時: 2021/04/01 18:15
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)

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「ねえねえ、日向。もしかして、この階層に残ってるのって、わたしたちだけだったりする?」
 どうして私に聞くのだろうか。そう思わなくもなかった。けれど、わざわざ言葉にするほどのことでもない。
「風魔法で、調べたら?」
「あ、そっか」
 スナタはぶつぶつと詠唱を唱え始めた。
 ああ、なるほど。薪を組み終わって、暇なのか。
 スナタの言う通り、この階層には私たちしか残っていない。他の班は、時間が惜しいのだろう。なんせダンジョン攻略というのは、早い者勝ちなのだ。

 あれ?

 私たちだけ。ということは。

 嫌な、予感が、する。

「スナタ。リュウ、見てくる」
 詠唱途中だったから、返事こそしないけど、聞いてくれているだろう。
「気をつけていけよ」
 蘭も聞いてくれていたようだ。
「って、気をつける必要もないな。すぐ戻るか?」
「わからない」
 私の答えに、蘭は不思議そうな顔をした。
「何かあるのか?」
「わからない」
 今度は、戸惑うような表情を浮かべる。
「嫌な予感がする、だけ。現実になるかは、わからない」
 ようやく蘭も理解したようで、うなずいた。
「詳しいことは、あとで。」
 私はローブをはおり、立ち上がった。
「行ってくる」
「おう、行ってらっしゃい」
 リュウは、たしか、こちらの方に。
 川を沿って、歩く。歩く。

 あくまで、予感だ。絶対ではない。
 でも、だけど。

 失うわけにはいかない。絶対に。

 たいして距離はなかったように感じる。
 一分にも満たない時間にも、五分以上にも、十分ほどにも感じるだけの時間歩いた先に、リュウはいた。

 たそがれている。その表現が適切だ。

 足を組み、川辺に座り込んで、ぼうっとしている。特に何かをしている様子はない。ただひたすら、水面を覗き込んでいる。
 しかし、私の気配に気づいたのか、リュウは顔を上げ、かすかに笑った。
「おー、日向、どうした?」
 私は会話が出来る距離まで近づくと、リュウに尋ねた。
「馬鹿みたいな格好の男、見た? 何か、されてない?」
「は、え?」
 見てないのか。
「なら、いい」
 リュウは目を白黒させた。
「日向がよくてもおれはよくないよ。どうしたんだ?」
 私がその問いに答えようとした、その瞬間。

「馬鹿みたいって、そりゃないよぉ。ボクの正装だよ? これ」

 耳障りな声が、不気味に響いた。

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