ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.65 )
日時: 2021/04/17 09:44
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)

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 声のした方を見ると、やや遠い、壁の少し出っ張っている部分に、男が立っていた。
 黒い髪に、黒い瞳。目は細く、笑っているくせに鋭い光を放つ。
 赤と黒で統一された、派手な格好。
 視界に入れるだけで、反吐へどが出る。
 男は頭のシルクハットを取り、演技めいた動作でお辞儀をした。
「そこの、りゅーくんだっけ? 初めまして。ボクは〔黒の道化師〕。道化師と言っても、ボクの仕事は裏側だどね。
 仲間内でからかい半分で呼ばれてただけなんだけど、おおやけになっちゃった」
 リュウは、目を見開いた。
「黒の……? 〔十の魔族〕か!」
「ピンポンピンポン。大正解。知ってるんだね、えらいえらい」
 からかうように、いや、からかっている。男は、ジョーカーは、からかう言葉をリュウに言ったあと、なめ回すように、リュウを見た。
「日向、あいつ、なんなんだ?」
 リュウは私に説明を求めた。
「呼び名は、〔ジョーカー〕。本名は知らない。
 例の組織の、幹部」
 ジョーカーは微笑んだ。
「そーそー。例の、ね。幹部って言っても、ボスの下の下の下くらいだけど。
 ああ、警戒しないで良いよ。今回の目的は、君じゃないから」
 ジョーカーは、ふわりと飛翔し、とんっと小さな音をたて、私たちの前に立った。
 そして、まっすぐにリュウを見た。
「今回『は』って言ったけど、正直、君に興味ないんだよね。『日向ちゃん』と関われるから、ボスの下にいるけどさ」
 眉間にしわが寄るのがわかる。
「あれえ? 嫌だった? だって、ボクの知ってる日向ちゃんの名前を呼ぶのは、タブーなんでしょ?」
 楽しそうに。可笑しそうに。ジョーカーは言う。
「そのくせに、りゅーくんは良いんだね。細かいし面倒臭いくせに、穴はあるんだ。
 楽しいね」
 知るか。
「ってことだから、安心して良いよ。ボクはジョーカー。組織の切り札。だけど君に手を出さない。
 だから、日向ちゃんもわかってたんでしょ?

 ボクがいると知っていて、ボクを放置したんだから」

 リュウが、声を漏らした。
「え」
 そして、私に問う。
「日向、知ってたのか? こいつがいること」
「うん」
 ジョーカーは満足げにうなずいた。
「うんうん。君はボクがあとをつけていることに気づいてなかったんだね。当然さ。君と僕じゃあ、レベルどころか次元が違う」
 次元が違う。その言葉で、リュウは全てを理解したようだった。説明する手間が省けて、助かる。
 私はリュウの前に立った。
「何の用?」
 ジョーカーは嬉しそうに目を細める。
「日向ちゃんに聞きたいことがあるんだよね」
 そして、両手に三本ずつ、計六本の小さなナイフ、投げナイフを手にした。

「そこのりゅーくん、殺して良い?」

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