ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.66 )
日時: 2021/04/01 18:16
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)

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「は?」
 私が睨み付けると、ジョーカーは頬を赤らめた。
「あー、良いね。その表情、素敵だよ」
 気持ち悪い。
「さっき言った『手を出さない』っていうのは、あくまで『ボスの命令』が理由で手は出さないってことね」
 くるくると、ジョーカーの手の上でナイフがまわる。
「ボクはね、日向ちゃんが大好きなんだよ」
 唐突に、ぼそりと、ジョーカーが言う。
 リュウは何も言わずに、ジョーカーの言葉を聞いている。
「さっき冒険者を殺したときみたいな、わかりやすく頭のネジがぶっ飛んだような、あの、狂った、昔の日向ちゃんが」
 ジョーカーは言葉を続ける。
「いまみたいな静かな狂気は、ボクの好みに合わない」
 そしてナイフをそれぞれ指の間に挟み、私の後ろ、リュウに向けた。
「君を殺せば、きっと、日向ちゃんはおさえきれない狂気をボクに向ける」
 紅潮した、うっとりとした表情。
「見たい。見たい。ボクは見たい。
 あの日向ちゃんが、どうしようもなく!
 ああ羨ましい! 日向ちゃんの狂気を一身に受け、死んでいったあの三人が!!」
 気持ち悪い。

 何も、感じない。

 こいつは昔からそうだ。何も変わってない。

 そして、私も。

「日向ちゃん。ボクを止めてみなよ。そいつを殺すからさあ。怒ってよ。
 狂ってよ」
 馬鹿馬鹿しい。
「!」
 ジョーカーの顔色が変わった。
「おい、日向!」
 リュウは私を、私が自分の首に突き立てた短剣を見て、叫んだ。
「だめ?」
「だめに決まってるだろ! やめろ!」
 リュウは珍しく本気で怒っていた。
 わからない。なぜ怒るのか。その必要があるのか。

 理解したいのに、わからない。

「こうするのが一番早いよ」
「だめだ!」
 そう私たちが話していると。
「やっぱりそうか」
 呆れたような、がっかりしたような、ジョーカーの声。
 ……違う。
「お前が元凶なんだ」
 怒りの声。

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