ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.68 )
- 日時: 2021/06/05 23:57
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 7WA3pLQ0)
7
「お前、ジョーカーか。『イロツキ』、いや、『イロナシ』だな、なんで『モノクロ』じゃないんだよ」
リュウの言葉を受けて、ジョーカーは目を丸くした。
「どうして君がその言葉を知ってるんだ?」
リュウはふふんと笑った。
「イロナシでもわからねえか。流石は俺だな」
そして、胸に手を当て、意気揚々と説明する。
「俺はこの体に【憑依】してるんだよ。魂の融合ってやつだな」
「魂の、融合?」
ジョーカーはあごに手を当て、ぶつぶつと言い始めた。
「そんなことが出来るのは……それでボクとアイツを知っていて……ってことは……」
ジョーカーはにやりと笑った。
「なるほど、キミか。
しかし、そんなことが可能なのかい? 日向ちゃん」
「なに」
「いや、どうなんだい?」
「現に、起きてる」
ジョーカーは苦笑した。
「それもそうだね。
ところで、どうしていま、出てきたの?」
「俺はこの身体の主導権が欲しいんだよ。こいつのせいで肉体が消滅しちまったからな。
魂の融合を行うときに、人格の出入りの主導権は俺が握るよう設定しておいたんだが、なかなか簡単には出来ない。こいつもこいつで持ってる力が強大だからだろうな。
でも、さっきのタイミングで、こいつの精神が揺らいだんだよ。で、出てきた」
「ご丁寧にどうも」
私はジョーカーが投げつけたナイフを弾き飛ばした。
ギィィイイン
今度は力を十分に溜めていたから、先程よりかはましだ。しかし、手はビリビリと痛む。
「でも、それでもボクの目的は変わらない。君を殺す。そしたら日向ちゃんはまた狂ってくれるんだ!」
今度は二連続でナイフが飛んできた。
ガキィィイインッ
私はもうひとつの短剣を瞬時に出し、ナイフを弾き飛ばした。
今はナイフの距離が近かったから、まだ対応できた。だけど、ジョーカーが本気を出したら、危険だ。
「あれえ? 《サバイバル》のルールで、武器は一つってことじゃなかったっけ?」
「この短剣は、対になってるから。二つで一つ。問題ない」
「そういうもん? じゃあ不規則に飛ばさなきゃだめだね」
そう言うと、ジョーカーは、残りの二本を投げた。
上へ下へ、右へ左へ。不規則で、二つのナイフの距離は近づき遠のき、軌道が読めない。
仕方ない。
じぶんできめたんだ。
必ず、守ると。
「黒よ、世の理を覆し、我の意に違うものを無へ還せ」
私が呪文を唱えると、赤く光る黒い魔法陣が地面に浮かび上がった。
シュウウウウッ
煙を上げて、ナイフが消滅した。
「これ、奴隷紋か?」
リュウが屈み、魔法陣をよく見た。
「なあ、たしかお前って」
リュウはそこで言葉を切った。
「おい! お前!」
リュウの声が、遠く感じる。
すぐ後ろに、いるはずなのに。
どさり。私は地面に膝をつく。
「はぁーっはぁーっはぁーっはぁーっ」
息が苦しい。体が重い。
胸をおさえて、ただ呼吸を繰り返す。
「おい! えっと、日向!」
リュウが私を大きくゆさぶる。
「う、るさい」
まだ終わってない。ジョーカーはあと六本、ナイフを隠し持っている。
「なんて無茶をするんだ」
ジョーカーは苦しそうに顔を歪めた。
「悪かったよ。ボクは君を苦しめたいわけじゃない」
体をくるりと反転させ、小さく告げる。
「君を取り戻すのは、もっとあとにすることにするよ」
そして、どこへともなく消えていった。
8 >>69