ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.70 )
- 日時: 2022/03/12 18:53
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: uqhP6q4I)
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「おー、遅かったな」
ぱちぱちと燃える炎のわきで、蘭は座り込んでいた。肉はもう食べ頃で、肉汁が垂れたのか、炎の周りは水滴の跡があった。
「! おい、何があった?」
蘭は私の腕を見て、リュウに詰め寄り、胸ぐらをつかんだ。
「お前がいながら、あの力を使わせたのか?」
「蘭」
私は蘭を制止するため、その名を呼んだ。リュウを責めるのは筋違いも良いところだ。
「責めるなら、私を責めて」
蘭は舌打ちをした。
「日向のことは、よくわかってるつもりだ。日向は、リュウを守るためにしか、その力を使わない」
それは違いない。蘭やスナタがさっきのリュウの立場になっていても、私は決して同じことはしないだろう。
「何があった?」
蘭は改めて、私に説明を求めた。
わたしはどこまで話そうか、しばらく悩んだあと、一言だけ発した。
「ジョーカー、イロナシに会ったの」
蘭の顔色が変わった。
「イロナシに?!」
「正確には、元・イロナシかもしれない。服が赤と黒で、モノクロじゃなかったから。でも、話し方も雰囲気も、少なくともイロツキではなかった」
蘭は腕組みをした。
「日向がそう言うなら、そうなんだろうな」
「ち、ちょっと待て!」
リュウが慌てたように会話に入った。
「蘭は、あいつを知ってるのか?」
リュウの言葉に、蘭はぱちくりと目を丸くした。
「は? 日向から何も聞いてないのか?
日向、どういうことだ?」
「リュウは、まだ、知らなくて良い。いずれ話す」
私は突き放すように言ったけれど、リュウは納得した様子を見せない。
「おれが知りたい!」
「なんの騒ぎなの?」
のんびりとした、スナタの場に似合わない声。
「せっかく気持ちよく寝てたのに。ジョーカーがどうしたの? 会ったの?」
ふわああとあくびをして、大きくのびをする。
もういいや。ここでこの話は終わらせよう。
「なんでもないよ」
私はスナタにそう言って、ベルを探しに行くために歩みを進めた。この呪いの進行を緩めるために、ベルはいるのだ。
「スナタも、知ってるのか?」
呆然とした、絶望したような、そんなリュウの声を聞かないように。
耳を塞ぐ代わりに、目を閉じた。
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