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ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.71 )
- 日時: 2021/04/01 18:20
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: eUekSKr/)
10
「最下層は、もう次くらいかな?」
「そうだといいな」
真白がいなくなって数日。私たちは五人でいたときの三倍ほどのスピードでダンジョンを攻略していた。
真白のことを気にしなくて済むようになったからだ。真白は魔物を引き付けるし、そのくせに魔物の攻撃を防ぐ手段がまだ未熟。いちいち庇ったり守ったりしなければならなかった。
いまは、魔物は隠れてしのぐか、固まっていればまとめて吹き飛ばすかしている。真白がいれば、これも出来ない。魔法や攻撃に巻き込んでしまうかも知れないからだ。
蘭はもう、少しでも早くここから出たいようで、げんなりした顔をしていた。
「扉は、開いてるね」
岩影から、スナタは次の階層への扉の様子を覗き見た。
「魔物も、全部倒されてる。行こう!」
スナタが元気よく走り出た。
「あっ、スナタ! 勝手に行くな!」
蘭も慌ててあとを追う。
「ブーメランだって言ってやりたいな」
リュウが呟いた。たしかに、蘭も勝手に行っている。
「あの二人なら、仕方ない」
私も諦めている。
「それもそうだな」
リュウのその言葉で、私とリュウは歩きだした。
扉の前に立つと、背筋がぞわりとした。
扉に触れると、その寒気はさらに増した。
なにか、いる。
「日向? どうかした?」
スナタが心配そうに私の顔を覗き込む。
「早く行こう」
この寒気は。
高揚だ。
「日向、顔怖いよ」
「?」
スナタが苦笑した。
「兎を見つけた狼の目をしてる」
「そう?」
なんだろう、この感じ。
私より強い、訳がない。
だけど、力だけが、強さじゃない。
どこか、懐かしい。
この感情。
無くなったはずの、あの感情。
「早く行こう」
私はもう一度言った。
「楽しみで、仕方ない」
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