ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.73 )
日時: 2021/04/07 12:55
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: FpNTyiBw)

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「神だけが、使えるわざじゃない。
 もしかしたら、加護を受けているのかも」
「加護?」
 スナタが首をかしげた。
「うん。どの神かはわからないし、違うかもしれないけど。それか、この間見た石像。あれが関係してる可能性もある」
 あの石像からは、なにか、異質なものを感じた。それに。
「蒼の扉。あれも気になる」
「そんなのあったなあ」
 蘭が言った。
「ちょっと私、潜ってくる」
「は?」
 私の言葉に、リュウが真っ先に反応した。
「待て、それならおれが行く!」
「リュウはだめ」
 水使いは普段、無意識のうちに水を操って泳いでいる。魔法が使えないこの水の中では、思うように体を動かせず、危険だ。
 それはリュウもわかっているらしく、唇を噛んで何も言わない。
 スナタは水泳は得意な方だけど、こんなよくわからない場所で泳いだことはないだろうし、蘭は、論外だ。
「近くの誰かを引っ張ってくるだけだから、そんなに長い時間は潜らないよ」
 言うが早いか、私はリュックをおろした。
「悪いけど、これ、持っててもらって良い?」
 私はリュウにリュックを差し出した。
「え? ああ、いいぜ」
 自分の私物を地面に置くと、それが世界にこのフィールドの一部だと認識されかねない。そうすると、【フィールド造形権限】の支配下に置かれてしまう。それは面倒だ。
 アイテムボックスに入れるのも、避けたい。あの中には何人か意識があるのも混じっている。Ⅴグループの生徒なら、アイテムボックスは五つしかない。ほうき、回復ポーション、武器。残りの二つはモンスターからドロップした戦利品などを入れるために空けておく必要がある。
 つまり、Ⅴグループの生徒は、大抵もうアイテムボックスを使いきってしまっているのだ。
 アイテムボックスに空きがあることを、知られたくはない。
「じゃあ、行ってくる」
「ちょっと待って! その格好で行くの?」
 スナタが飛び込もうとした私を止めた。
「うん」
 当然だ。ここで全裸になるわけにはいかないし、替えの服も持っていない。
「それはどうかと思うよ? ほら、私の服貸してあげるから」
 スナタはアイテムボックスを可視化して、私に見せた。その欄には、服がずらりと並んでいる。
「いらない」
 私は面倒になり、スナタにそう言うなり水の中に飛び込んだ。

 どぷんっ

「あーっ!」
 スナタの声が聞こえる。

 何も、聞こえない。

 深い。深い。
 真っ暗な空間が、どこまでも続いている。
 私は潜った。深く、深く。
 暗い。暗い。
 先が全く見えない。

 ん?

 視界の先に、ぼんやりと光る何か。
 青白い光。なんだろう。
 それはあまりに小さくて、私でも、その正体はわからなかった。

 早く戻ろう。深く潜り過ぎたかもしれない。

 コポッコポッコポッ

 音が聞こえる。

 コポッコポッコポッ

 その音が何なのかは、すぐにわかった。

 目の前に、丸い、両手に抱えるくらいのサイズの物体が現れた。
 一定のリズムで傘を動かし、ピョコピョコ移動している。
 この生物は、見覚えがある。丸い体に、短い触手。ということは、この運動は、拍動と呼ばれるものか。
 しかし、大きい。私が知っているそれは、手の平に乗せるとすると三、四匹は乗る。

 いや、考えるのは後だ。いまはまず戻ろう。全てはそれからだ。

 未知の生物に囲まれてはいるが、それは無視しよう。

 私は上へ上へと泳いだ。浮力も味方し、ぐんぐん上がっていく。

「……はっ」

 息を吐いて吸って、呼吸を整える。
 落ち着いたあと、妙なことに気がついた。

『蒼の扉へ進む者、王へ忠誠を誓う者』

「なるほどね」

 嗚呼、楽しい。

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