ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.75 )
日時: 2021/04/07 13:00
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: FpNTyiBw)

 14

「くらげぇ?」
「うん。とてつもなく大きかったけど、あの形は、くらげ」
「大きさって、どのくらいなんだ?」
 リュウが言った。
「私が見たキャノンボールクラゲは、このくらい」
 私は両手で丸を作った。
「でっか!」
「キャノンボールクラゲって、指で丸を作ったくらいじゃなかったっけ?」
 二人とも、顔をひきつらせている。
「このダンジョンのボスは、くらげ。だから、蘭は戦いにくいと思う」
 くらげは、水の中からは決して出てこない。魔法は無効化されるし、蘭の武器は弓、水中戦には圧倒的に不利だ。
「じゃあおれ足手まといもいいところじゃねえか。泳げねえし」
「そうだね」
「はっきり言うなよな」
 蘭はぷいっとそっぽを向いた。
「あと、この足場になる輪の外、そこにも水溜まりが広がってた。水位はだいたいここと同じ」
「この外側にも、まだあるのか?!」
「うん」
 リュウがびっくりしている。
「それなら、このフロアはとてつもない広さだな。壁は見えたのか?」
 私は首を振った。
「なにも。ただ、怪物モンスター化した人はいた」
「はっ?」
 リュウは口をぱかっと開けたまま、静止した。
「額に濁った水晶が埋め込まれて、白目向いてた。たぶん、〈呪われた民〉を模しているんだと思う」
 かなり不十分だったけど。
「『蒼の扉へ進む者、王へ忠誠を誓う者』。
 おそらく、あの扉に進んだものは、モンスター化する。そしてそのあと、ここに来るんだ」
「なんでそんなところを《サバイバル》の場所に選んだんだよ!」
「それは思う」
 蘭の言葉に、リュウが同意した。
 たしかに、おかしい。いくらバケガクと言えど、生徒たちの安全を守りきれないこんなダンジョンを選ぶなど。
 教師たちはここのダンジョンのレベルはあまり高くないと言っていたが、冗談じゃない。強制的にモンスター化させてしまうダンジョンなど、ここ数年、聞いたことない。せいぜいここの難しいポイントは、出口が一ヶ所しかないところだけだと思っていたのに。
「おーい、君たち!」
 やや遠くから響く、男性の声。
「誰だっけ?」
「ほら、フォード先生。てか、蘭。ここ来るまでに一緒に行動してくださってた先生だろ」
「そうだっけ?」
 リュウはため息をついた。
 フォード先生は駆け寄り、私たちを改めて見た。怪我の有無などを見ているのだろう。
「えっと、その子は大丈夫なのか?」
 スナタのことだろう。
「はい」
 スナタはもう泣き止んではいるものの、まだ離れてはいない。
「そうか。
 私はさっきここについたばかりだ。ほかに残った班がいないか確認しながら来たが、どうやらあとは君たちだけのようだ」
 他の奴ら全員雑魚か。
「んっ?
 !!! おい、君! 生きてるのか?!」
 どうしたのかと思いフォード先生の目線の先を見ると、気絶した男子がいた。
 あ、忘れてた。
「この子はいったい、どうしたんだ?」
 私が泳いでいったと言うと、色々面倒か。
「流れてきたのを、引っ張り上げました」
「流れて?」
 フォード先生は、ちらりと水面を見る。
「ふむ。たしかに、何人か流れて近くにいる生徒がいるな。引き上げるか。
 いま、[ノルダルート]の騎士団が向かってきているところだ。じき到着する」

 15 >>76