ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.76 )
日時: 2021/04/07 13:01
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: FpNTyiBw)

 15

 どかどかどか。
 つい先ほど到着した騎士団が、慌ただしく生徒の救助を進めている。他の階層に残っていた教師も集まり、広大であるこの空間に、人がごった返している。
「君たち、よく生き残ってたね! すごいじゃない!」
 騎士団とは別の、ひいらぎ隊と呼ばれる、主に女性で構成された救急部隊の中の二人が、私たちの面倒を押し付けられた。
 一人はアンリ。ひたすら話しかけてくる。
 もう一人はケミラ。アンリの制止役。
「生き残る、じゃないでしょ。誰も死んでないわ」
 ケミラが言った。
「こ、言葉の綾よ!」
 アンリが慌てて言い直した。
「すごいね、ここまで魔物に倒されずに来れて」
「ありがとうございます」
 リュウがぺこりと頭を下げた。
「やだ、かっこいい! ねえねえ、名前は何ていうの? いくつ?」
 リュウは少したじろいだ。
「笹木野 龍馬です。年は……」
「へええ! たつまくんかぁ! 名前もかっこいいじゃない!」
 きゃあきゃあと黄色い悲鳴をあげるアンリを、ケミラがおさえた。
「ちょっとアンリ! 困ってるでしょ、やめなさい!」
「なによー。あ、もしかして、ケミラはこっちの子の方がタイプ? かわいい系好きだもんね。
 君は名前何ていうの?」
 蘭は表情をほんの一瞬ひきつらせたあと、営業スマイルで答えた。
「東 蘭です」
「らんくんね。女の子みたいな名前ね」
 蘭はそのことを気にしているらしく、笑顔に闇が差した。
「こんにちは。二人の名前は何ていうのかな」
 ケミラが私たちに近寄り、目線を下げて言った。
「私はスナタです!」
「花園、日向」
「スナタちゃんに、日向ちゃんね。ほんの少しの間だけど、仲良くしてくれると嬉しいな」
 ケミラがにこっと笑った。美人とは言えない容姿ではあるけれど、綺麗な笑みと言えるだろう。
「よろしくね」
「はい!」
 スナタが元気よく返事した。
「うわああああっ」
「きゃあああああああっ!」
 突然、鋭く悲鳴が響いた。
「ええっ? なになに」
 アンリが怯え、ケミラが私たちを抱き締めた。
 離してほしい。

 ばしゃっばしゃっ

 水面から、大量の人が現れた。足場につくと同時に、手当たり次第に魔力を振り撒く。
「引くな! 応戦せよ! 生徒を守れ!」
 団長らしき男が叫んだ。
 水面から現れた人、モンスターは、まさに、私が足場の外側で見た生命体だった。
 前が見えていないのか、壁にぶつかったり、水に落っこちていく奴もいる。
 モンスターが放つそれは、魔法ではなかった。強い魔力の塊で、それに触れると、どさりと倒れてしまう。
 流血などは何もない。倒れた兵士は無傷だ。しかし、いくら揺すぶられても起きる気配がない。
「なに、あれ」
 アンリの瞳が揺れている。
「アンリ! 魔法障壁を張るわよ!」
 ケミラが私たちを離し、ケープから杖を取り出し、アンリに近寄った。
「う、うん。わかった」
「しっかりしなさい! 不安定な心じゃ、精霊は応えてはくれないわよ!」
「わ、わかってるよ!」
 アンリも杖を出し、構えた。
「「光よ、我らを守りし壁となれ!」」
 呪文に反応し、光の壁が出現した。
「すごおい! 光魔法の【障壁】が使えるんだ!」
 アンリが魔力を注ぎながら、自慢げに言った。
「まあね! 二人じゃないと出来ないけど」
 ということは、この二人はこれまでも何度か組んだことがあるということか。
 でも、駄目だ。こんな障壁じゃ、あの魔力は防げない。
 兵士もだんだん数が減ってきた。
「あの」
 リュウが口を開いた。
「おれも、行っても良いですか?」
「ええ?!」
 アンリが言った。
「だめよ! あなた、まだ学生でしょ?! どんな学校であれ卒業して、正式な訓練も受けた兵士が次々にやられてるの! ここにいて? 安全だから」
 その直後。

 ぱあんっ

 飛んできた魔力により、障壁が破れた。
「アンリ! もう一回!」
「う、うん」
「蘭」
 私は蘭に声をかけた。
「蘭なら、出来るよね」
 蘭はすぐに私の言葉の意味を理解し、にやっとわらった。
「当然だろ」
 そして、指を鳴らした。
 すると、先ほどの障壁の何倍もの強度を持つ、光の障壁が、三重に私たちを覆った。
「リュウ、行け! 二人はおれに任せろ」
 蘭は親指を自分に向け、リュウに言った。
 リュウは大きく頷いた。
「ああ、頼んだ」
 リュウは駆け出した。
「あ、ちょっと! まって、待ちなさい!」
 アンリが怒気を含めて叫んだ。しかし、リュウの足は止まらず、さらに加速する。
「ケミラ! 私、たつまくんを追いかける!」
 その言葉と共にアンリが走り出すが、障壁に衝突し、頭を撃った。
「いったぁーい! ちょっと、開けてよ!」
 蘭が見下したように鼻で笑う。
「やめとけやめとけ。あんたが行っても足手まといになるだけだ。
 ここにいろよ、安全だから」
 押し黙るアンリを見て、蘭が楽しそうに笑っていた。
「くっくっくっくっ」
「猫の皮とるの、早かったね」
 スナタの言葉に、私は肩をすくめた。

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