ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.77 )
- 日時: 2021/04/07 13:02
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: FpNTyiBw)
16
「…………」
「…………」
「あ、あのー」
むすっと黙り込む二人に、スナタがおずおずと話しかけた。
「なに?」
アンリが応えた。
「あー、えっと、リュウ、龍馬なら大丈夫なので、そろそろ機嫌を直してくれませんか?」
「別に、機嫌悪くなんかないけど」
アンリはぷいっと横を向いた。
「なあ、日向」
蘭が私に言った。私が蘭の方を振り向くと、蘭は話し始めた。
「リュウ、どうするのかな。魔法は使えないんだろ?」
「普通は、たしかに、そう。でも、リュウは違う。
ここの階層は【破壊不能】。でも、それだけ。魔法をあのモンスター『だけ』に当てさえすることが出来れば、問題ないはず」
大きな魔法によりモンスターを攻撃し、それがフィールドの造形物に当たると、魔法そのものが無効化される。
もしもここのボスがあのモンスターをフィールドの一部だと捉えていれば、魔法が無効化されるかもしれない。だけど、その可能性は低い。
この【破壊不能】は、【フィールド造形権限】により引き起こされた現象。権限はあくまで権限であり、権限を持っていても、作り出す能力がなければ意味はない。
そして、生物など、ただのダンジョンボス程度が作り出せるわけがない。つまり、【破壊不能】は、あのモンスターには適用されない。
「リュウの魔法コントロールは、バケガク内でもトップクラス。
聞くより見た方が早い」
私は障壁の外側を指差した。
「ん?」
蘭は私の指の先を見ると、目を見開いた。
「ははっ! すっげえ!!」
障壁は淡い黄の光を放っているので、リュウの姿は少し見えづらい。
しかし、蘭にははっきりと見えているようだった。
リュウは水魔法【水矢】で、的確にモンスターの体を貫いていく。その姿は綺麗なもので、無駄な動きは一切ない。
百発百中。
「流石だな、あいつ」
蘭が感嘆の声を漏らした直後。
「失礼、声は聞こえるかな?」
障壁の外から、声がした。
「あー、えっと、生徒会長だっけ? 王子の」
「うん」
いまは跪かなくてもいいだろう。そんな状況ではない。
「エールリヒ様! いまご到着なされたのですか?」
「話はあとだ。すまないが、この障壁は東くんが?」
エールリヒが蘭に向かって言う。
「はい。そうです」
「すまないが、他の生徒もこの障壁に入れてもらえないかな。個別で障壁を張ってはいるようなんだが、強度も広さも、これには及ばなくてね。協力願いたい」
エールリヒの言う通り、他にも点々と障壁はあるが、どれも小さく、光の色も、とにかく薄い。『淡い』のではなく、『薄い』のだ。
「承知いたしました」
蘭はうやうやしくお辞儀をして、一度障壁を解いた。
「では、人々を一ヶ所に集めよう。手の空いている者には私から指示を出しておく。
そこの四人も、手伝ってくれ」
エールリヒが私たちに言った。
「わかりました!」
「「はい!」」
やめたほうがいいのにな。
しかし、そんなことを口にして、なぜそう思うのかなどと質問責めにされるのは面倒だ。
「わかりました」
私は素直に、従うことにした。
17 >>78