ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.78 )
日時: 2021/04/12 20:59
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: EM5V5iBd)

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「この子で最後だよ!」
 スナタが最後の一人を運び込み、蘭は再度障壁を張った。
「はあー、つっかれたー!!
 あれ? 日向、どこ行くの?」
 障壁のはしに向かおうとした私に、スナタが言った。
「あっち」
「それはわかるよ。
 まあいいや。ばいばい」
 私は頷き、人を運び込むときに調整した、周りに気絶した人があまりいない場所へと移動した。
 障壁にギリギリまで近づき、障壁に背を向ける。
 これでよし。準備は整った。
 人目があるから、魔法は使えないし、全力でも
走れない。
 少しでも、距離を稼いでおかないと。
「どうしてこんな端にいるの?」
 ケミラに声をかけられた。ここには、万が一のためにアンリとケミラ、そして、屈強な兵士五人、さらに障壁の外に兵士十人がいる。
 私はなんと答えようか考えたあと、言った。
「背を、向けたくないんです」
 あとは察してください、という含みを込めて、私は口を閉じた。
 私は、白眼によって、多くの人から差別の目を向けられてきた。バケガクに入ってもそれは変わらない。かげでこそこそ悪口を言われていたのも、知っている。
 そんなもの、気にしたことはないが、この人の追及を妨げるには最適の話題だ。
 狙いどおり、ケミラは黙った。それでもなにか言おうとしていることが、瞳が揺れていることでわかった。
 黙ってくれないかな。というか、どこかへ行ってほしい。
 そう、思っていたとき。

「う、うう……」

 足元で、うめき声が聞こえた。
 それと同時に、障壁の外が騒がしくなった。
「なんだあれは!」
 見ると、水面の中央に、少女が立っていた。
 目には包帯を巻き、額には半透明な水晶がある。髪は白で、かすかに、ふわふわと浮いている。身に付けているものは、大きな布きれ。それを、服に見えるように巻き付けている。
 淡い光を身にまとい、その姿は、神秘すら感じさせた。
「目を覚ましたの?」
 ケミラは少女に気づいていないのか、先ほどうめき声を上げた少年に意識が向いている。

 少女が口を開いた。

「王に敗れた者たちよ、王に忠誠を誓い、王の敵を滅ぼしなさい」

 幼い少女のような、成人した男のような、老いぼれた老人のような、不思議な声が、静かに響いた。
 すると。
「う、うう……」
 また、うめいた。今度は、一人じゃない。
 一人、また一人と、うめき声を上げ、目を覚ます。
「ああ、よかった! 大丈夫? ここがどこかわかる? 自分の名前は?」
 なにも答えない。瞳はぼんやりとしていて、聞いているのかすらも曖昧だ。

「立ち上がりなさい。王のために!」

 少女が声を張り上げた瞬間。

 ぎゅるんと、一斉に、倒れていた全員の瞳が回転し、白目を向いた。

 その額には、濁った水晶。

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