ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.79 )
- 日時: 2021/04/12 20:53
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: EM5V5iBd)
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「え、え、きゃああっ!!!」
ケミラが悲鳴を上げた。こんな近くで叫ばれると、耳が痛くなる。
「なんだ、これは?!?!」
「とにかく、一度障壁を解いて!」
「わかりました!」
蘭の言葉とほぼ同時に、障壁がなくなった。
さて、どこまで力を出そう。
そう、思いながら、走ろうとすると。
「逃げるわよ、日向ちゃん!」
ケミラに背を押され、無理矢理走らされた。
?
「あなた、Ⅴグループよね? さっき、聞いたの。Ⅴグループの、生徒は、劣等生。非常事態の時は、優先して、守る、ようにって。
特に、日向ちゃんは、なに? 実技の試験? で、ワースト、二位、なんでしょ? だから、特に、気にかける、ように、頼まれたの」
息を切らし、はあはあと言いながら、ケミラが言う。
途切れ途切れの言葉は聞き取り辛く、理解に一瞬の時間を要してしまった。
なるほど。だから、さっき、私のそばに来たのか。
突如、後ろから、強い魔力の気配がした。
どうせ、またあの魔力の塊だろう。
あいつらは、精神を支配された『人形』と化している。モンスター化によってか、魔力は底上げされているが、コントロール出来なければ、『魔法』は使えない。
だから、『魔力』を振り撒くのだ。
おそらく、あれに当たって倒れると、奴らと同じ道をたどるのだろう。
魔力はまっすぐ私たちに向かっている。
直撃は免れない。
さあ、どう回避しようか。
「日向!!」
リュウの声が、響いた。
たくさんの悲鳴や掛け声に混じり、全体としては、ほんのかすかな声量ではあった。
けど、聞き落とすわけがない。
振り向くと、リュウがいた。
私たちを狙っていたのは、女子生徒。リュウはその体を、見事に撃ち抜く。
貫通した矢は、私から数メートル離れた地面に突き刺さり、【破壊不能】により、消えた。
「日向! 平気か?!」
「うん」
「あ、相変わらずだな」
「?」
「その無表情!」
リュウが私の顔に、人差し指を突き立てた。
そして、はあ、と溜め息を吐き、手を降ろす。
「ここに来るまでに、蘭たちとすれ違った。二人一緒だ。向こうは心配ない。
日向、出来れば、おれと一緒にいてほしいけど、どうだ?」
「うん」
「ちょっと待ってください!!」
ぜえぜえと肩で息をしている兵士が、すぐそばにいた。
「やっと、追い、ついた」
「おれを追ってきたのか?」
追ってきた?
どうして、わざわざ。
「笹木野さん、戦場から抜けるってことですよね?
困ります! 戦力が減ると!! 笹木野さん、めっちゃ強いじゃないですか!」
こいつ、リュウを、なんだと思って?
「日向」
リュウが、私を制止するように、手の平を私に向けた。
別に、いまは、なにもしないよ。
「おれにも、優先順位はあります。あのモンスター化している人々を倒すことよりも、おれは、日向を守る方が大事です。
王子か隊長か騎士団長か、誰に指示されておれを追ってきたのかは知りませんが、そう、伝えてください」
「で、でも! あれを倒すことが、必然的にその子を守ることに」
「二度は言いません」
リュウは、笑顔で、兵士の言葉を遮った。
「いま、こうやって話している時間が、勿体無い。
そう思いませんか?」
兵士は、ぐっと押し黙ったあと、静かに「わかりました」と言い、うなだれて帰っていった。
「あ、じ、じゃあ、日向ちゃんのこと、よろしくね!」
ケミラはリュウに言うと、兵士を追って、駆けていった。
この状況であの兵士の様子では、流石に心配にもなるか。
「じゃあ、日向。どうする?」
リュウが言った。
「その辺で、留まって、モンスターが来たら、殺す」
「殺すって、まだ生きてるんだろ?」
私は、少し、驚いた。
「気づいてたんだ」
「いや、むしろ、あいつらとほぼ接触してない日向が気づいてる方が、すごいだろ」
「そう?」
「ああ。だから、おれは、あいつらを殺してない。何人か死んでるけどな」
別に、あいつらは、殺しても良い。
あいつらは、殺しても、罪にならないから。
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