ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.81 )
- 日時: 2021/04/12 20:55
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: EM5V5iBd)
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「化身じゃ、ない?」
リュウが首をかしげた。
「どういうことだ?」
私が説明しようとすると、少女の目がこちらに向いた。
にやりと、少女の口角が上がる。
少女の手の平がこちらに向き、魔法が放たれた。
それにリュウも気づいたらしく、私に飛びついて、大きく横へ跳んだ。
「わ」
突然のことに驚き、私は声を漏らした。
「あっ、悪い! どっか痛めたか?」
心配そうに瞳を揺らすリュウに、私は横に首を振って応えた。
驚いたのは、リュウが私を守ったことに対して。
そんなこと、すると、思わなかったから。
「平気」
と、同時に、リュウの体から、鉄のような匂いがした。
「……」
頭が真っ白になった。
「日向?」
血の気が引いていく。
おかしい。
おかしい。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!
「日向!」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「日向!」
リュウの声が、遠ざかる。
「おれなら平気だから! 日向!」
「違う。違う」
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
「私は、こんなんじゃない」
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。
「守らなきゃ、守らなきゃ、いけないのに」
私は、こんなんじゃない。
「あ、あ、あ、あ」
「日向!」
急に、体の周りが暖かくなった。
「大丈夫だから! このくらいの傷、なんともないから。
しっかりしろ。な?」
何度も、何度も、リュウが私の耳元で、訴える。
「おれは平気だから。おれは大丈夫だから。
大丈夫。大丈夫。
平気だから。おれは平気だから。
落ち着け。ゆっくりで良いから。な?」
少しずつ、荒れた息が落ち着いた。
リュウは私から体を離し、肩を抱いた。
「よし。そのまま深呼吸して」
言われるがままに、私は大きく息を吸い、吐き出した。
「よくできました」
わしゃわしゃと、リュウが私の頭を撫でる。
冷たかった心の中が、じんわりと、芯から温まっていく。
やっぱり、リュウは、私の光だ。
そうだ。落ち着け。
落ち着かないと、冷静じゃないと、守ることなんか出来やしない。
冷静に。
あいつを殺す方法を、考えないと。
今の私でも、あれを殺せる方法を。
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