ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.84 )
- 日時: 2021/04/16 20:49
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)
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誰からも疎まれて、蔑まれて。おれは、存在価値すら持たなかった。
こんな世界、壊れてしまえばいいと思っていた。
だけど、日向と出会った。
おれが日向の救いであるように、日向も、おれの救いなんだ。
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『おーきーろー!!』
頭の中で、声が響く。
寝起きの頭にこの声量は、気持ちが悪い。
おれはもぞもぞとベットから顔を出し、時計をみた。
「まだ朝か」
そして、再びベッドにもぐる。
『も! う! あ! さ! だ!
さっさと起きろ! おまえがぼうっとしてたら、おれまで意識が朦朧とすんだよ!』
おれの中に勝手に入ったのは、そっちの方だろ。
『誰のせいだ! お! き! ろ!』
ぎゃいぎゃいとわめく声に耐えかね、おれは体を起こした。
『しゃきっとしやがれ!』
うっせえなあ。わかってるよ。
コンコンコン
「龍馬、起きてる?」
このジャストなタイミングと声は、しっかり者の三女、舞弥姉だ。
「起きてるよ」
「入るわね」
がちゃりと音がして、ドアが開く。
艶のあるきれいな長い黒髪が特徴の、舞弥姉。男遊びが好きな長女と次女を反面教師としたことで、誰もが認める優等生に育った。人間の父親からは、それはそれは喜ばれている。
「おれ、どのくらい眠ってたんだ?」
「一週間くらいね。帰ってきて、すぐ眠ったんですって? よっぽど疲れてたのね」
音も立てない模範的な仕草で、ベッドの横のテーブルに、コーヒーが並べられていく。
「ココアじゃなくて良かった?」
舞弥姉が、くすりと笑う。
「からかうなよ」
おれはそれを一口飲んだ。
「あー。家に帰って初めて飲むのが、舞弥姉のコーヒーで良かったよ」
「お世辞がうまくなったわね」
「お世辞じゃねえよ! 人がせっかく誉めてんだから、素直に喜んどけ!」
「誉められてる感じがしないわ」
舞弥姉は、つんっと顔を背けたかと思うと、すぐにおれに向き直った。
「もしかして、何も食べてないの?」
「ん? ああ、そういやそうだな」
何気なく「初めて飲んだ」と言ったが、そもそも口に物を入れたのが、初めてだった。
「お腹空いてるんじゃない? お父さんがまだ寝ているけど、もう食べる? それか、血の方が良い?」
「別に、おれの好物は血じゃねえよ」
苦笑いしているのが、自分でもわかる。舞弥姉はどうやら、なにか勘違いしているようだ。
「そう? ストックはたくさんあるから、欲しくなったら言ってね」
人間の血が濃い姉が、人間の血の扱いに慣れている様を見て、改めて、成長環境が与えるものはすさまじいものだと、実感した。
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