ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.84 )
- 日時: 2021/04/16 20:49
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)
0
誰からも疎まれて、蔑まれて。おれは、存在価値すら持たなかった。
こんな世界、壊れてしまえばいいと思っていた。
だけど、日向と出会った。
おれが日向の救いであるように、日向も、おれの救いなんだ。
1
『おーきーろー!!』
頭の中で、声が響く。
寝起きの頭にこの声量は、気持ちが悪い。
おれはもぞもぞとベットから顔を出し、時計をみた。
「まだ朝か」
そして、再びベッドにもぐる。
『も! う! あ! さ! だ!
さっさと起きろ! おまえがぼうっとしてたら、おれまで意識が朦朧とすんだよ!』
おれの中に勝手に入ったのは、そっちの方だろ。
『誰のせいだ! お! き! ろ!』
ぎゃいぎゃいとわめく声に耐えかね、おれは体を起こした。
『しゃきっとしやがれ!』
うっせえなあ。わかってるよ。
コンコンコン
「龍馬、起きてる?」
このジャストなタイミングと声は、しっかり者の三女、舞弥姉だ。
「起きてるよ」
「入るわね」
がちゃりと音がして、ドアが開く。
艶のあるきれいな長い黒髪が特徴の、舞弥姉。男遊びが好きな長女と次女を反面教師としたことで、誰もが認める優等生に育った。人間の父親からは、それはそれは喜ばれている。
「おれ、どのくらい眠ってたんだ?」
「一週間くらいね。帰ってきて、すぐ眠ったんですって? よっぽど疲れてたのね」
音も立てない模範的な仕草で、ベッドの横のテーブルに、コーヒーが並べられていく。
「ココアじゃなくて良かった?」
舞弥姉が、くすりと笑う。
「からかうなよ」
おれはそれを一口飲んだ。
「あー。家に帰って初めて飲むのが、舞弥姉のコーヒーで良かったよ」
「お世辞がうまくなったわね」
「お世辞じゃねえよ! 人がせっかく誉めてんだから、素直に喜んどけ!」
「誉められてる感じがしないわ」
舞弥姉は、つんっと顔を背けたかと思うと、すぐにおれに向き直った。
「もしかして、何も食べてないの?」
「ん? ああ、そういやそうだな」
何気なく「初めて飲んだ」と言ったが、そもそも口に物を入れたのが、初めてだった。
「お腹空いてるんじゃない? お父さんがまだ寝ているけど、もう食べる? それか、血の方が良い?」
「別に、おれの好物は血じゃねえよ」
苦笑いしているのが、自分でもわかる。舞弥姉はどうやら、なにか勘違いしているようだ。
「そう? ストックはたくさんあるから、欲しくなったら言ってね」
人間の血が濃い姉が、人間の血の扱いに慣れている様を見て、改めて、成長環境が与えるものはすさまじいものだと、実感した。
2 >>85
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.85 )
- 日時: 2021/04/17 09:54
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)
2
舞弥姉が食事を取りに部屋を出た直後に、声が頭に響いた。
『何で血を飲まねえんだよ。理性吹っ飛ばそうぜ』
なんでだよ。
『俺が体を乗っ取りやすい』
知ってる。だから飲まないんだ!
『そうでなくても、おまえが理性飛んだところは見てて飽きねえからな』
それも含めて嫌なんだ!!
『つまんねえの』
それで良いんだよ。
おれの両親は、人間と〈吸血鬼〉。おれはいわゆる、〈半怪人〉。ハーフには様々な『異形』が生まれるが、その中でも、特におれは特殊とされている。
ヴァンパイアとしての血と、人間としての血の割合が、ほぼ一対一。しかも、その両方の『良い部分』のみを受け継いでいるのだ。
具体的に言うと、一般的なヴァンパイアの、人間とはかけ離れた優れた能力を持ち、なおかつ、太陽の光に弱いといった、ヴァンパイアの弱点がないのだ。
適応属性が闇ということもあり、≪光の御玉≫や≪聖水≫には拒否反応を示してしまうが、そこを含めても、他のヴァンパイアと比べると、弱点が異様に少ない。
故におれは幼い頃から、〔邪神の子〕として、期待に包まれて育ってきた。
それはいい。
だけど、不満が一つある。
血を飲むと、理性が飛ぶのだ。
良いところ、というのは、ヴァンパイアたちが欠点としている部分以外、ということだ。
他のヴァンパイアたちは、自分の理性が飛ぶことをさほど気にしてはいない。それはごく普通のことであり、恥ずかしいことではないからだ。
感情をコントロール出来るに越したことはないが、おれの家系の本家の祖父ですら、完全なコントロールは出来ない。
そして、おれは、理性が飛んだときの記憶が残る。
別に、それ自体も問題ない。
要は、日向の目の前で理性を飛ばすのが嫌なんだ。
思い出すのも嫌な記憶が、おれの頭の中で再生される。
苦い味が、口の中に広がるのを感じた。
『てかさ、なんでそこまであいつに気を回すんだよ。理解できねえ』
こいつに思考を読まれることには、もう、諦めた。
理解してもらう必要はないので、おれは無視した。
どどどどどっ
突如、部屋の外から、大きな音がした。
ばあん!
「お兄様!」
大きく開いたドアの向こうから、特徴的な、やや青紫色の光を帯びた黒髪の、ドリルツインテールの少女、ルアが現れた。
「ノックはしような?」
おれは努めて笑顔で言った。それに対し、ルアはわずかに頬を赤らめた。
「お兄様に、すぐにお会いしたかったものですから」
「ルアが来たってことは、明虎もいるのか?」
すると、ルアは機嫌を損ねたらしく、そっぽを向いた。
「あんなやつ、知りませんわ」
「そう言うなって」
どどどどどっ
「ルアー! 抜け駆けすんじゃねえよ!!」
先ほどのルアと全く同じ動作で、明虎が部屋に入ってきた。
新緑を思わせる鮮やかな緑色の髪に、おれは目を細めた。
「ふん! 出来損ないの人間が、ヴァンパイアのすることに口を出すんじゃありませんわ」
「はあっ?! おれと龍にぃは実の兄弟だぞ!? ただの従妹のおまえこそ、口出すんじゃねえよ!」
ぎゃいぎゃいと元気に喚く弟と従妹の声で、おれの耳は痛かった。
「なんの騒ぎ?」
舞弥姉が、またジャストなタイミングで部屋に入ってきた。
天の救いだ!
「龍馬、朝食を持ってきたけど、あとにする? こんなに騒がしいと、ゆっくり食べれないでしょう」
じと、と、舞弥姉が二人を睨む。途端に、部屋は静かになった。
「あら? 舞弥さん、お兄様の朝食が、何故、人間が口にするものですの?」
ルアが厳しい口調で言った。
「龍馬のリクエストよ」
舞弥姉はそう言って、机に次々と中身の入った食器を並べていく。
「お兄様?」
おれはため息を吐いた。
「おれは血に関しては潔癖なんだ。誰のか知れない血なんか、飲みたくない」
ルアは腑に落ちない様子だったが、しぶしぶ頷いた。
「そう、そうでしたわね。それなら、仕方ありませんわね」
ぶつぶつと、自分に言い聞かせるように、繰り返し唱えていた。
3 >>86
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.86 )
- 日時: 2021/04/16 20:52
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)
3
『おい』
なんだよ。
『めっちゃ見られてるぞ』
それくらい、わかってるよ。
おれは食べる手を止め、スプーンを置いた。
「ルア、明虎」
「はい!」
「なに?」
瞳をキラキラと輝かせ、二人がおれの言葉に応える。
「後でちゃんと遊んでやるから、向こうで本でも読んでろ」
おれがぎっしりと本で埋め尽くされた本棚を指差すと、二人はむうっとむくれた。
なんだ?
二人の(成長速度を考えて比べたときの)年齢はおれよりも低いが、ヴァンパイアの家系に属しているにふさわしいだけの知能が備わっている。少々二人の年代には合わない本もあるが、内容は理解出来るはずだ。何が不満なのか。
『二人の年代には合わないって、いかがわしい本でもあるのか?』
ねえよ! ばか!
「お兄様」
「龍にぃ」
「ん?」
「「ばかあ!!」」
そう同時に叫ぶと、仲良く(?)二人で部屋を飛び出していった。
「舞弥姉、おれ、なんか悪いことした?」
「あのね、龍馬。二人は、龍馬とお喋りしたかったのよ。遊びたいのももちろんだけどね」
あー、なるほど。
『あーあ。せっかく慕ってくれてるのになー』
お前に言われたかねえよ!
「食べ終わってからでいいから、二人のところに行ってあげなさい。なんだかんだ言って、龍馬のことが大好きなんだから」
大好き。その言葉にくすぐったさを感じ、おれは自分の頬がかすかに緩むのを感じた。
舞弥姉が微笑ましそうにおれを見ているのに気づいて、すぐにそれを消したけど。
「うん、わかった」
「あ、でも、ちゃんと味わって食べなさいよ。食材にはきちんと感謝して」
「それもわかってるから!」
おれは舞弥姉の言葉を遮り、食事を再開した。
4 >>87
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.87 )
- 日時: 2021/04/25 08:37
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)
4
おれは食事を終えて、二人がいると思われる、居間に向かっていた。
『別に行かなくてもいいだろ。ほっとけよ』
そんなことしねえよ。おまえと一緒にするな。
懲りずに何度も言われて、そろそろおれもイライラしてきた。
ろうそくの火だけが点々と灯る、暗く長い廊下を歩いて、おれは目当ての部屋に到着した。
『なんでわざわざガキのために五分もかけて移動するんだよ。呼べば来るだろ、あいつらなら』
だから、おまえと一緒にするな! 反吐が出る!
『きったねえな。吐くなよ?』
言葉の綾だ!
頭の中で押し問答を繰り広げながら、おれは扉をノックした。
コンコンコン
「ルア、明虎? 居るか?」
そう言い終わるや否や、勢い良く扉が開いた。
「げっ」
目に飛び込んできた巻き毛の黒髪。
気の強そうな紫の瞳と目があって、思わず声が出た。すぐさま肩に腕を回される。
「お姉さまに向かって『げっ』はないでしょう?」
『相変わらず香水臭い女だな』
おれはなんとも思わないが、一般からするとかなり強い力で、華弥姉はおれの首を絞める。かなりほっそりとした体型であるにも関わらず。体を流れる血がほとんど吸血鬼なだけある。
「華弥姉、離せよ。ってか、なんでいるんだよ。男と暮らしてんだろ?」
なにかわけありなのはすぐにわかった。吸血鬼、ということを念頭に置いても、華弥姉の顔は青白い。
華弥姉は、空いている右手で演技めいた動作をしながら、やれやれと首をすくめた。
「あんなの、ポイよ。聞いてよー。あいつったらすっかり太っちゃってさ、血が不味いのなんの。つい最近まで健康的だったのにね。私まで太っちゃうわ」
「つい最近って、何十年前だよ。成長速度が全く違うんだから、仕方ないだろ? 学習しろよ」
言った直後に、後悔した。
おれはあまり、この人(吸血鬼)が得意ではない。やたらとベタベタ絡んでくるタイプは、苦手だ。
「人間の血が一番美味しいんだって! 栄養価も高いしね。知ってる? 美しい人間の血を飲み続けると、若返るんだって! ちょっとあんた、バケガク通ってんでしょ? しかも、なんだっけ? Ⅱグループ? って、優良物件多いんでしょ? あんた顔も外面もいいんだから、交友関係広いでしょ? 良さそうなの何人か見繕ってきなさいよ。そうね、女がいいわ。あごがつかれないし。とにかく美味しい血を飲んで、口を洗いたいのよ」
一度に捲し立てられ、おれは自分でも、げんなりとしているのを感じた。
『あごの心配するって、こいつも老けたな』
こいつの相手をしているというのも、その理由の一つだろう。
「やだよ、めんどくさい」
「てかさー、なんであんたは血を飲まないわけ? 潔癖性とは言うけどさ、他のことはそうでもないじゃない? 綺麗好きとは思うけど。
この屋敷の貯血庫にあるのは、どれも一級品だし、保存方法にも細心の注意を払ってるから、舌の肥えてないあんたには十分すぎるほど美味しいわよ?」
おれの話を聞いているのか。
いや、それよりも。
華弥姉は話すことに意識を向けているらしく、おれの首を絞める強さが弱まった。
すぐさま、振りほどく。
「それなら、華弥姉がその血を飲めばいいだろ。好きなだけ口を洗え」
「舌の肥えてない、って言ったでしょ。あたしはSランクの血を求めてさ迷ってるのよ。一級品とはいえAランクの下の方の血なんか、飲めたもんじゃないわ」
舞弥姉が聞いたら、怒るだろうなあ。食材には感謝って。
食材、か。
「舌の肥えてないおれに、華弥姉の舌を満足させる逸品を見極められるわけないだろ」
「はあー。冷たいわねえ。だからあの二人もへそを曲げてるのよ」
華弥姉は、くいっと親指で部屋の中央の椅子に座る、ルアと明虎を示した。
特に何をするわけでもなく、茶色い革製の大きなソファに腰かけて、うつむいている。
さっきから騒いでいたのだから、おれが来ているのには気づいているはずだ。なのに、一向にこちらを見る気配はない。
おれは二人に近づいて、机を挟んだ向かい側に座った。
「ルア、明虎」
一瞬だけ、目が合った。
「「ふんっ!」」
明らかに拗ねている。
「ごめんな、二人とも」
『謝んなよ。悪いことしてねえだろうが』
「おれ、ちょっと疲れてたのかな。八つ当たりみたいなもんだ。ごめん」
『む、し、す、ん、な!』
「お詫びに、今日一日、二人がやりたいことに付き合うよ。それで機嫌を直してくれないか?」
沈黙が、この部屋を支配した。
『はーあ。このヘタレ。クズ。なあーにが『ごめん』だよ。悪いのはそいつらだろうが。あほらし。こんなガキ相手に頭下げんじゃねえよ!』
おれの頭の中以外。
「じゃあ」
ルアが口を開いた。
「読んで欲しい本がありますの! 異国の言葉で、わたくしには読めませんから」
「そっか、わかった。後で一緒に取りに行こう」
「はい!」
「あ、おっおれは!」
慌てたように明虎が言った。
「魔法教えて欲しい! 火属性の攻撃魔法!」
火属性か。
おれの適応属性は闇と水。しかし、明虎に教えるくらいのものならば、一人前以上に使いこなせる。
「ああ、いいぜ」
「剣術も教えて! あと、一緒に鬼ごっこしよ! それからかくれんぼと、えっと、えっと、あっそうだ! ステータス見せて!」
「ちょっと明虎! 多すぎますわよ!
お兄様! わたくしもまだしていただきたいことがありますわ!」
「わかったわかった。とりあえず落ち着け。順番に一つずつやっていこう。おれの体は一つだぞ?」
おれはいま、苦笑いを浮かべていることだろう。
しかし、全く、苦い感情はわき出てこない。
世界は、これを、『幸せ』と呼ぶのだろうか。
5 >>88
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.88 )
- 日時: 2021/10/03 19:13
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: OypUyKao)
5
「ふわーあ、じゃああたしは寝るから、あんまりうるさくしないでよ」
華弥姉が大きくあくびをした。
「棺桶にでも入ってりゃ良いじゃねえか。そのためのもんだろ?」
明虎が言った。その通りだ。おれも何度も頷き、同意を示す。
「寝心地が悪いのよ。ただでさえ最近まともに食事してないんだから、のびのびと寝るくらいさせてよね」
「華弥さんは、睡眠が深い方ですから、よほどのことでない限り起きないのではないですか?」
おれはルアの言葉にも、同じように同意を示した。
ごんっ
「いって!」
突然、頭に衝撃が走った。
「なんでぶつんだよ!」
「お姉さまに向かって失礼でしょう!!」
「なんでおれだけ?!」
それと、お姉さまってなんだよ!
「もう、華弥ねぇ! 早く寝ろよ!」
明虎が、華弥姉をぐいぐいと押しやり、部屋の外へ追い出した。ナイス!
「ええっ! ちょっとぉ」
ばたん!
「明虎、ナイスファインプレー!」
「へへっ」
明虎は、得意気に人差し指で鼻の下をこする。
「じゃあ龍にぃ! 何からする?」
おれは少し考えた。
「ステータスを見せるのを最初にするよ。一番手間が少ないしな。ちょっと待ってろよ。
ステータス・オープン」
ふおんっ
淡い青の光が、部屋全体に行き渡る。
大量の文字の羅列の中から、おれは操作用のボタンを探しだし、情報を一部、非表示にする。
ふと視線をそらすと、明虎とルアが、そわそわした様子で、おれの手元を見ていた。
無意識に、笑みがこぼれる。
ステータスは、スキル【鑑定】を使うか、特定のアイテムを使うかしない限り、本人の同意なく、見ることは出来ない。二人の目には、青みがかった白い横長の長方形の無地の画面しか写っていないはずだ。にもかかわらず、この状況。
『こいつら、ばかかよ』
黙れ。
「良し、出来たぞ。
ステータス・オープン・リリース」
ぶうんと音がして、一瞬、画面が光る。
「どうだ、見れたか?」
「うん!」
「はい!」
二人に見えているステータスは、こうだ。
『【名前】
笹木野 龍馬
【種族】
ハーフ〈ヴァンパイア/人間〉
【職業】
・魔術師 level358
・剣士 level179……
【使用可能魔法】
・水属性
└水魔法
├攻撃類
│└水矢……
└応用類
└害物排除……
・闇属性
└拘束類
└ブラックホール……
【スキル】
・空間同化 level23……
【称号】
・世界に優遇されし者
・邪神の子……』
「すげえ! すげえ! すげえ!」
「それしか言えませんの?」
ルアはあきれた口調で言う、が、ルアも興奮しているらしく、その目のきらめきのせいで、あまり効果はなかった。
「お兄様、さすがですわね! 職業のレベルが全て三桁を越えていらっしゃいますわ!
それに、スキルも! いくつか30に迫っているものもありますし、さらには越えているものまでありますわ!」
「使える魔法もめっちゃ多いし! 技見せてもらえないのが残念だけど」
明虎がぼそっと言った。
「ごめんな」
明虎が言う技とは、例えば剣技などの、魔法を使わない(使うものもある)技のことだ。おれは技を修得しすぎていて、ステータスに表示するとややこしいので、非表示にしている。
「ほお、これはすごいな」
後ろから声がした。全員気配を感じ取っていたので、特に驚くこともなく、振り向く。
「父さん、起きたのか」
「父ちゃん! 見ろよ! すごいだろ!」
「辰人さん、おはようございます」
全員が口々言ったことで、父さんは少し困惑しながらも、穏やかな笑みを浮かべた。浅葱色の瞳に、優しい光が灯る。
「おはよう、皆。朝から元気だね。そういえば、ルアちゃんは寝てなくていいのかい?」
「言われてみれば、そうだな。ルア、どうしてこんな時間から起きてるんだ?」
吸血鬼は、夜行性。ルアはおれと違い、正真正銘の吸血鬼。おれたちが住んでいるこの屋敷は、大陸フィフスにある。大陸フィフスは年中特殊な雲(諸説ある)に覆われ、太陽の光が届かない。故に、昼間に起きていても何ら問題はないのだが、生物は、摂理にはどうしても逆らえない節がある。だからこそ、華弥姉は眠りに行ったのだ。
「お兄様にお会いしたかったものですから。
普段からわたくしとお兄様は生活リズムが合わず、当然ながら、あまり会うことが出来ません。ですが、疲労したお兄様がお帰りになったと聞いて、きっとぐっすりお眠りになるのだと思って、起床時間と就寝時間を調節し、お目覚めになるのをお待ちしていたのですわ」
これには苦笑せざるを得なかった。なんとも、正確に行動を予測されている。
いまルアが言った通り、おれは普段、一般の人間と同じような生活をしている。一日おきに目覚め、寝て、また翌日に目覚め、寝て。
しかし、おれに吸血鬼の血が流れているのは事実。吸血鬼は、一度眠ると、少なくとも一ヶ月は眠ったきりになる。そこまで疲れがたまることはほとんど無いが、おれは疲れていた。ありがたいことに、バケガクも《サバイバル》後は二週間ほど生徒に休みを与えている。理由は、おれのような生活リズムの感覚が人間よりも遅い種族の生徒の休息ためと、教師たちの後片付け。
「わたくしも、今朝起きたばかりですのよ。真弥さんに、この日に起こすようお願いしていましたの。お兄様はだいたい一週間ほどでお目覚めになられますから」
「なあ、ルア。おれって、そんなに行動に変化ないのか?」
ルアの目が泳ぐ。
これはある種仕方の無いことなのだ。なんせ、
『面白味の無いやつってことだな、はっはっは!』
こいつが! いちいち! おれの行動に文句をつけるから!
今朝だって起こされたし!
「ルアは本当に龍馬が好きなんだね」
「それはもう。お慕いしておりますわ」
そう言ってルアは、おれにもたれかかる。
「おっおれだって龍にぃのことすきだぞ!?」
負けじと明虎もおれに抱きつ、いや、しがみついた。
父さんは目をほそめ、微笑んだ。
「それじゃ、私は朝食をとってくるよ。邪魔みたいだからね」
父さんは、穏やかな笑みに少し寂しさを混ぜて、首に手を当てた。成人男性にしては珍しい水色の長髪が、ふわりと手に当たる。
「邪魔って、そんなこと」
おれの言葉を、二人が遮った。
「じゃーね父ちゃん!」
「ごきげんよう」
「否定しようぜ?!」
6 >>89
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.89 )
- 日時: 2022/09/18 23:24
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: bGiPag13)
6
「……また、創造神が使っていたとされる呪文には、火、水、風、土、光、闇といった属性名は含まれておらず、その代わり、赤や青といった、色名が用いられていたと伝えられている」
そこまで読んだところで、おれは両脇から聞こえる静かな寝息に気づき、読むのを止めた。
「寝たか」
疲れを吐き出す溜め息と共に、微かな笑いが口から漏れた。
「こんな本を、子守唄代わりに読ませるとはな。末恐ろしい」
おれはそう呟き、たった今まで朗読していた『私達の呪文』という、呪文について書かれた書物を、丁寧に閉じた。
二人を起こさないようにゆっくりとベッドから降り、布団を綺麗にかけ直したあと、二人の頭を軽く、二度撫でた。
わずかに微笑むその顔を見て、思わずおれも笑顔になる。
『すっかり腑抜けやがって』
不機嫌な声が、頭の中で響いた。
『むかしっから思ってたけど、近頃、ますます毒気が無くなってきてるよな』
おまえに関係ないだろ。
『むかつくんだよ。見たくなくても、感覚はリンクしてるしな』
しるかよ。
『誇りもなにも持ってない。力はあるのに、それを使うことをしない。
あーあ。こんなことなら、【憑依】なんてするんじゃなかったぜ』
「う」
うるさいと、怒鳴ってしまいそうになった。
二人が寝てるのだ。静かにしないと。
『それだよ、それ。他人に気を遣うなんて、何でするんだよ? 訳わかんねえ』
吐きそうなほどの、怒りが込み上げた。
何に怒っているのか、何に怒ればいいのか、わからない。わからない。
物音を立てないように、暴れだしたりしないように、必死に自分の感情を押さえて、部屋を出た。
「龍馬?」
また、タイミング良く、いや、悪く、真弥姉に会った。
いまは、一人になりたかったのに。
「龍馬、その顔」
真弥姉は言葉を切った。そして、話題を変える。
「二人が起きて来たときのことは気にしないで。外の空気でも、吸ってきなさい」
ありがとうと言う気力も沸かなくて、おれは歩けているのかすらもわからずに、ふらふらと真弥姉の横を通った。
「これは、しまっておくわね」
おれの手から、本を抜き取り、小さく、そう言うと、真弥姉は、おれの部屋に入っていった。
おれは薬を閉まっている部屋に行き、戸棚をあさった。
何度も出し入れして、目を閉じてでも見つけられる小箱を戸棚から出し、開く。
これはおれしか開けられないように、魔法をかけてある。中身は、『オレ』と日向しか、知らない。
薬包紙に包まれた錠剤の一つを取り出し、水を汲む手間すら惜しんで口にいれ、飲み込んだ。
途端に、心臓が大きく跳ねた。
血の流れが、拍動が、胸に手を当てなくても、手放しで感じられる。
立っていられなくて、おれは倒れ込んだ。
これは、魂に作用する薬。一定の時間『あいつ』の意識を強制的に眠らせることが出来る代わりに、おれの体内に魔力が十分に巡らなくなる。
魔力を血液とするならば、魂は、心臓だ。魂を中心として、魔力は全身を回る。
血液の流れが止まれば、身体はその活動を意思に関係なく終了せざるを得なくなる。
魔力でも、それは同じだ。魔力によって体を動かしているに等しいおれのような魔法使いは、魔力の供給が鈍れば、死にも似た苦しみを与えられる。
__________
しばらく苦しんだ後、ようやく『あいつ』は眠ったらしく、薬の作用が弱まった。
「はあ、はあ、はあ」
錠剤は、もうすぐで底をついてしまう。
次日向に会った時に、追加の薬を頼もう。
意識がだんだんと正常に戻ってきたので、膝をついていた足をあげ、近くの椅子に腰かけた。
息を整え、目を閉じる。
おれだって、望んでこんなことしている訳じゃない。
おれは、あいつが、大嫌いだ。
おれを蔑んだ、『あいつら』なんか、大嫌いだ。
でも、おれが『出来損ない』だったのは、事実なんだ。おれの意識に、そう、刷り込まれている。刷り込まれているということを自覚しているのにもかかわらず、おれはそれを否定出来ない。
「ひなた」
情けない声が、漏れた。
「メンバーチャット・オープン」
やわらかな緑色の光が、暗い部屋に溢れる。
通知はない。日向からの着信はなかった。それでも、おれは、日向との個人のチャットを開いた。
だけど、パネルを操作しているうちに、手の動きは遅くなっていき、止まった。
「メンバーチャット・クローズ」
おれはメンバーチャットを閉じた。
そして立ち上がり、小箱をしまって、部屋を出た。廊下を右に曲がって、突き当たりまで歩く。
大きなはめ殺し窓に手を当て、念じる。
【闇魔法・破壊】
どろりと、窓が溶けるようにして、穴が開く。
おれは、背から羽根を出した。最近はあまり出していなかったので、かすかに、むずむずとした違和感がする。
おれは床を蹴り、穴から飛び出した。体は重力にさからうものをうしなったために、落下を始める。
ばさりと強く羽根を動かし、体を安定させる。
おれは壊れた窓に近寄り、再び念じる。
【闇魔法・修復】
時間が巻き戻るように、窓の穴は塞がっていった。
これで良し。
そう思ったところで、苦笑が込み上げた。
自分だって無理をするくせに、日向には無理をするなと言うのだから。
魂に作用するあの薬によって、おれの中の魔力は、いま、とても不安定だ。そのため、おれの魂は、魔力を必死になって循環させている。魔法を放つということは、その循環の流れに、外部から変化をもたらすということだ。そんなことをすれば、魂は循環のリズムを狂わせてしまい、魔力は暴走を始めてしまう。
だから、たぶん、おれの魂は、もう、ボロボロなんだと思う。だからあいつも、気が立ってるんだろうな。
いや、あいつはもとから、ああだ。
おれは首を振った。
わざわざ薬まで飲んで、あいつを眠らせたんだ。いまはそんなこと、考えなくていい。
おれは羽根を動かした。
高く飛んで、光の無い森を、一望する。夜目が効くので、見えないなどということは、一切無い。これは魔力とは何の関係もないのだから。
さて、今日はどこへ行こう。
当てなどまったく無い。ただ本能に従い、おれは、闇の中を彷徨った。
7 >>90
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.90 )
- 日時: 2021/04/25 08:46
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)
7
「うー」
おれはベッドでごろごろしていた。
暇だ。
おれには趣味なんてものはないし、ルアは本来の生活に戻って眠っているし、明虎は昨日教えた魔法を使うために、森へ魔物狩りへ出掛けた。真弥姉も、それについていった。
父さんや兄貴たちは仕事で、母さんも華弥姉も、爺ちゃんや他の皆も、二ヶ月は起きてこないだろう。
だからなんだろう。こんなことは、今しか言えない。
「あああああ、ひなたあああ!」
「龍馬様」
「うわあっ?!」
扉の向こうから、声がした。この声は、メイドのツェマだ。
聞かれたか? 聞かれたか?
「何の用だ?」
うん、何事もなかったことにしよう。いや、何もなかった。そうだ。声がひっくり返っていることは気にするな。
「お休み中に申し訳ありません。つい先程、学園より、呼び出しの旨を伝える手紙が届きました」
学園から?
「入れ」
「失礼いたします」
ツェマは最小限の音だけ立てて、おれの部屋に入った。
黒よりも青に近い、藍色のボブヘアーは、まったく動かない。洗練された動きだ。
扉を閉める。いつも思うが、おれの部屋の扉は、おれの体力に合わせてあるので、なかなかに重いはずだ。ツェマは確かに力を込めて閉めているようだが、それでも、不自然な動き、とまではいかない。女性の中でも小柄なはずなのに、どんな鍛え方をしているのだろうか。
まあ、〔邪神の子〕が幼い頃から、面倒を任されている者からすれば、当然と言えば当然なんだろうけど。
おれを、切れ長の黒い瞳が見る。
表情は少なく、ただ落ち着いた様子で、おれの近くに寄り、手紙を渡した。
おれはざっと目を通した。
「学園長からか。何のよ、う」
おれの口が、無意識に止まった。文面には、いつものメンバー、つまり、日向、蘭、スナタも呼び出しにあっていると、書いてあった。
「手紙の中身を拝見させていただきました。書いている通り、花園様もおよび出しにかかっているそうです。」
うわー! 絶対笑ってる! 絶対笑ってる! 表情は動いてないけど、声が震えてるぞ!
「では、失礼します」
声の出せないおれを知ってか知らずが、ツェマはおれの返事を聞かずに、細い腰を折って、去っていった。
8 >>91
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.91 )
- 日時: 2022/04/19 19:14
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: IfRkr8gZ)
8
おれはあと、二、三回転がると、ベッドから飛び上がるようにして、床に立った。
いそいそと壁に掛けてある制服のところまで行き、ハンガーから外す。
他の服は別の専用の部屋にしまってあるが、制服はいちいち取りに行かせるのは面倒だからと、部屋に置いてある。
シャツとズボンを着替えて、緑色のネクタイを締めるために、鏡の前まで行く。締め方はもう、体に染み付いているが、念のため、というやつだ。
ベッドのすぐ近くにある、姿見の前に立つ。
水色、と言っても、水よりかは空の色のような髪と目。髪質は結構ストレートで、他の男子と比べるとちょっと長いけど、髪が絡まったことは覚えがない。体はかなり鍛えてあるはずだが、体質なのか、目に見えた筋肉質、というわけはない。ただ、華弥姉にがっしりしていると言われたことがある。容姿は、吸血鬼の血を引いていることもあって、一般に言われる『美形』の類いに入る、らしい。それ故か、そこそこもてる。別に、嬉しいとか、そういった感情はないけど。本音で。
誰に向かって言い訳しているんだと苦笑しつつ、おれは目線を、鏡に戻した。
思わず、顔をしかめる。
右目が、少し、黒くなっている。
本当に、少しだ。ツェマの髪よりも、青に限りなく近い。けれど、確実に、黒くなっている。
少しずつ、少しずつ、おれの魂は、あいつに侵食されつつある。その証拠が、これだ。
いつかおれがおれでは無くなってしまうのかもしれない。たぶん前例がないことだろうから、どうなるのかはわからない。
だから、恐怖。未知のものへの、恐れ。
書物は大量に漁ったし、日向も協力してくれている。しかし、前例なんてあるはずもない。解決の糸口すら、おれは見つけられたことがなかった。
いや、いまはやめよう。おれ一人がぐだくだと悩んだところで、何の価値もない。
意味が、無い。
ネクタイを素早く締めて、部屋を出る。
迷路のような屋敷の廊下を歩いて、玄関、にしては広すぎる場所に出ると、ツェマがいた。
「お靴とほうきをどうぞ」
「ありがとう」
さっきのことがなかったように、いつものやり取りを終えて、おれは扉を潜り、門を出た。
ほうきにまたがり、飛ぶよう念じて、空へ。
学園へと、向かった。
9 >>92
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.92 )
- 日時: 2022/04/19 19:16
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: IfRkr8gZ)
9
おれは学園長室の扉をノックした。
コンコンコン
「入りなさい」
若い女性の声がする。
学園長、しかもバケガクのともなれば、それなりに経験を積んだ者が勤めるもの、と、世間では思われている。実際にそうなのだが、どうしても年配の男性を思い浮かべてしまう人が多いらしく、また、あまり表に顔を出さないので、よくびっくりされているのを思い出した。
「失礼いたします」
先に声をかけてから、入室する。
「CクラスのⅡグループ、教室番号三◯二、出席番号六番、笹木野龍馬です。お呼び出しを受けて、参りました」
おれの家にもあるような、大きなはめ殺し窓を背にしているせいか、艶のある女性にしては大柄な体の腰まで伸びた髪は、光を反射し輝いているように見える。
黒縁の眼鏡の奥にある、きゅっとつり上がった細い目が、かすかに、満足げに揺れた。
「うんうん。笹木野君は、相変わらず礼儀正しいね。
君も見習ったらどうだい?」
細くしなやかな指が両手で交互に組まれ、その上に顎が乗せられる。
学園長の視線が、おれから見て左に移った。
誰に言ってるんだ?
「うわっ!」
気づかなかった。おれのすぐ横に、日向がいた。他の二人はいない。日向はおれをちらりと見ると、すぐに学園長と視線を交わす。
二人が会話しているようだったので、水を差すようなことはしないが、どうしても言いたいことがあった。
日向、絶対おれを驚かそうとしたよな?
日向は表情に出さないだけで、ちゃんと感情はある。いまもそうだ。おくびにも出さないが、内心は笑ってるに違いない。
「別に、言わなくても、分かりきってる」
日向は言った。
「いやいや。たしかにそうかもしれないけどさ。それでも、いまは学園長と生徒って関係な訳だから、花園君は、きちんと礼儀を通さなきゃ」
苦笑いしつつ、学園長は言った。日向はまだ、入室の挨拶を済ませていないらしい。
日向は分かりやすく、嫌そうに眉を潜めた。
こうした、半ばふざけたような仕草を日向がすることは、滅多にない。それ故に、日向と学園長が旧知の仲であることを、暗に語っていた。
「君だって、下に立つ者が敬意を持って接しなかったら、怪訝に思うだろ?」
「別に」
日向は即答した。学園長はしばらく制止し、ため息混じりに言う。
「君に聞いた私が馬鹿だったよ」
どういう意味だと、日向は目で尋ねた。
「言葉の通りの意味だよ」
演技臭く、学園長は肩をすくめる。
10 >>93
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.93 )
- 日時: 2021/04/25 08:57
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)
10
タッタッタッ
廊下を駆ける音が、扉越しに聞こえる。
それが唐突にピタリと止まり、きっちり十五秒後、扉が叩かれた。
コンコンコン
「入りなさい」
「失礼します!」
「失礼します」
入ってきたのは、蘭とスナタだった。
二人一緒か、いつも思うけど、仲が良いな。
「CクラスⅢグループ、教室番号三◯四、出席番号十六番、スナタです」
「CクラスⅡグループ、教室番号三◯四、出席番号一番、東蘭です」
「良く来たね。でも、廊下は走らないようにね、スナタ君。
さあ、あとは花園君だけだよ。いつまでも駄々をこねてないで。
さあ」
蘭がおれに、こそっと耳打ちした。
「もしかして、日向、挨拶してないのか?」
「たぶん。ちなみに、おれよりも先に来てた」
「はは。安定してるな」
日向は、流石におれたちを待たせるという気はないらしく、しかし渋々といった様子を隠す素振りも見せずに、淡々と言った。
「Cクラス、Ⅴグループ、教室番号三◯二、出席番号十八番、花園日向」
「です、は?」
「です」
「うん、もういいや。これ以上彼等を待たせると、何故か君が怒るからね。
君がさっさと言えば済む話なのに」
「本題」
「はいはい」
ひとしきりやり取りを終えて気が済んだのか、学園長はいきなり、本題に入った。
11 >>94
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.94 )
- 日時: 2022/04/25 17:51
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: f0TemHOf)
11
「話というのは、おそらく予想しているだろう、ダンジョンのことだよ」
誰も驚く様子はない。学園長もそれが当たり前であるかのように、何の反応も示さない。
「どうだった?」
いつものごとく、情報量の少ない言葉。
おれたちが理解するよりも先に、日向が言った。
「成長を司る堕天した神が、くらげを育ててた」
学園長は首をかしげた。
「堕天? それは……」
「違う」
学園長が言葉を発するよりも先に、日向は答えた。
そして、それ以上話すつもりはないという意思表示として、顔を背けた。
冗談ではなく本気で、必要以上に拒絶の意を示した日向に対し、少し申し訳なさそうに、学園長が言った。
「冗談だよ。わかってる。
それにしたって、情報が少ないかな。一番知りたかったことはそれだから、流石だとは誉めるけど」
「理事長に、言われたくない」
学園長は苦笑した。
「まだそう呼んでるんだね、君は。
それもそうだ。それは謝ろう。君の理解力は把握しているから、どうしても楽をしがちだ」
日向は言葉にこそ出さないものの、「言い訳はいいからさっさと話せ」と、目で圧をかけていた。
「それもそうだな。さて、どうだった?」
今度は日向はなにも言わなかった。
「〈呪われた民〉を模したと思われる、少女の石像がありました。おそらく、堕天神と石像の少女は、同一人物かと」
人物ではないけど、と、おれは心の中で呟く。
そして、言葉を続けた。
「また、『世界に危険視され、世界にこの場所をダンジョンと指定された』と言っていました」
「世界に?」
学園長は、日向を見た。日向はその視線に気づき、じっと、学園長を見つめる。そして目を閉じ、ふいに、ゆっくりと首を左右に浅く振った。
「ふむ、世界とは、『本当の』世界、という意味か。
なかなか興味深い」
学園長はニヤリと笑った。
「ところでさー、何でおれたちを呼んだんだ? 呼んだんですか?」
蘭が言い直しながら、学園長に尋ねた。
それもそうだ。報告なんて、既に聞いていてもおかしくない。それに、情報源にわざわざおれたちを選ばずとも、さらに適切な人材なんか腐るほどいる。何せここは、バケガクなのだ。
とぼけた『ふり』をして、おれも学園長を見た。
学園長は不適な笑みを崩さずに、否、それに拍車をかけて楽しそうに口もとを歪め、視線を日向に移した。
もちろん、何も言わない。
「気が利かないな」
言葉とは裏腹に、学園長は笑みを保つ。
「それは……」
質問に対する答えをおれたちが聞こうとした、そのとき。
コンコンコン
予定外の訪問者によって、学園長室の扉が叩かれた。
12 >>95
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.95 )
- 日時: 2021/04/25 08:59
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)
12
「どうぞ」
「失礼します」
学園長の言葉を受け、入ってきたその人物を見て、おれたちは脇にそれた。頭を下げた状態で、静止する。
「AクラスのⅠグループ、教室番号一◯一、出席番号一番、エールリヒ・ノルダン・シュヴェールトです」
どうでも良いが、一が四つもある。どうでも良いが。
「やあ。早かったね」
学園長の言葉からすると、どうやら、彼の登場はあらかじめ知らされていたものらしい。
ならさきに言え。
同じ考えに至ったのであろう日向から、そんな雰囲気が漂ってきた。
同感だ。おれたちは、願わくば、この人たちにはなるべく遭遇したくない。
おれたちの関係は、『一般的には』不自然だからだ。
「AクラスのⅡグループ、教室番号一◯一、出席番号二番の、エリーゼ・ルジアーダです」
おれはちらりと、ノルダルート国王太子と、ルジアーダ伯爵令嬢を見た。
ばちっと目があった。学園長と話している王太子ではなく、端末、情報を効率良く共有、整理、管理するために作り出されたものを持った、令嬢と。
ぱっと目をそらす。しかし、ルジアーダ嬢はおれに興味を示したらしく、歩み寄ってきた。
「こんにちは、笹木野さん。頭を上げてください」
名指しで声をかけられては、無視するわけにもいかない。
おれは顔を上げて、まっすぐに、ルジアーダ嬢を見た。
「お久しぶりです、ルジアーダ嬢」
13 >>96
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.96 )
- 日時: 2021/04/25 09:07
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)
13
日向は表情ではわからないが、蘭とスナタは少なからず驚いたようで、目を丸くしている。
それはノルダルート王太子も同じなようで、こちらを見た。
「えっと、二人は、顔見知りなのかな?」
ルジアーダ嬢は、頷いた。
「はい。私の国[エンディナーメモス]は、[黒世界]の大陸フィフスにとても近い、島国です。そのため、繋がりの強い国から、大陸フィフスとの交易の国として、よく利用されています。私の父もしばしば直接交易の任を任されていて、幼い頃に何度か、私も現場に同行したことがあるのです。
彼とは、そのときに出会いました」
おれは、なにか、違和感を覚えた。
なんだ?
ああ、そうか。
『説明口調』なんだ。
どうしてだ?
ルジアーダ嬢の国が[エンディナーメモス]であることも。
大陸フィフスが[黒世界]に位置付けられていることも。
[エンディナーメモス]が大陸フィフスとの交易の場であることも。
ルジアーダ嬢の父上が、その任を任されていることも。
次期国王の立場なのなら、『知っていて当然のこと』なのに。
「笹木野君は、たしか、〔邪神の子〕と呼ばれているんだっけ? それで、祖父が、カツェランフォードの」
「カツェランフォートです」
ルジアーダ嬢が、こそっと耳打ちした。
「……カツェランフォートの現当主」
「お互いの交易の任を任された回が重なり、なおかつ、現場に連れていってもらった回が重ならないと会えなかったので、会った回数はさほど多くありません」
やはり、違和感。
14 >>97
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.97 )
- 日時: 2021/05/01 07:37
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: yV4epvKO)
14
日向なら、なにか知っているかもしれない。でも、人目があるから、聞けない。
【鑑定】してみるか。
唐突にその考えが浮かんだ。
うん、そうしよう。
おれは視線をノルダルート王太子に向けた。
【鑑定・対象:エールリヒ・ノルダン・シュヴェールト】
ぶうんと音がして、おれの中に、情報の渦が流れ込む。
青い光の中に取り込まれるような感覚。映像、文字、感情。様々な情報の中から、おれは、目当ての文字の羅列を暗記。
気配を悟られる前に、渦の中から自分の『気』を抜いた。
『記憶』と『暗記』は、違う。
おれは『文字の羅列を覚えた』だけで、『内容を理解』はしていない。
暗記したノルダルート王太子のステータスを頭の中で映し、改めて、その内容を『意識の視界』の中にいれた。
『【名前】
エールリヒ・ノルダン・シュヴェールト
【種族】
人間〈ノルダン人〉
【役職】
ノルダルート国王(仮固定)
【職業】
・魔術師 level 97
・剣士 level 103
【使用可能魔法】
・風属性
└風魔法
└補助類
└加速……
【スキル】
・寒冷耐性 level32
・察知 level12
・索敵 level11
・精眼 level 3
【称号】
・王族の欠落品』
『仮固定』に、重みを感じた。
それはつまり、それ以外の役職を認めないということ。
役職というのは、特別な職業だ。次期国王になれなければ、その枠はなくなる。
この人の宿命だ。
おれは意識を切り替えた。
特に、おかしな点はないように感じる。職業が二つだけなのも一般的で、三つあると重宝されるのを考えると、おれたちが異常なのだ。今更だけど。
スキルが少ないのも、〈人間〉の特徴。精眼があるのは、珍しい。
一つ気になるのは、『王族の欠落品』。
次期国王なのに?
15 >>98
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.98 )
- 日時: 2022/04/27 08:08
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: emG/erS8)
15
「学園長。ところで、どうしてこの人たちがここに?」
ノルダルート王太子が言った。
声を大にして、こっちの台詞だ、と言いたい。もちろん飲み込むけれど。
「ん? 君の要望だろう。花園君たちについて知りたいというのは」
学園長の言葉に、おれたちの顔に緊張が走り、ノルダルート王太子が慌てた。
「が、学園長!」
その理由も、なんとなくわかる。おれたちに直接聞かないということは、後ろめたいという気はしていたのだろう。
「事情が事情だからね。私もどこまで話して良いのかわからんし。下手に話してあとで花園君に怒られるのは嫌なんだ」
「怒られる?」
ルジアーダ嬢が、呟いた。
「私と花園君は、長い付き合いでね。生徒と教師という立場ではあるが、そこそこくだけた関係なんだ」
肩をすくめるような口調で、学園長が言った。
日向は、なにも言わない。
この時点で、既に怒られるのは確定しているけどな。
日向が発する、おれたちにしかわからない、そう『コントロールされた』負の気配に、おれは苦笑を押さえるのに苦労した。
そのことには、学園長も当然、わかっているのだろう。日向に視線を向けて、目配せをした。
挑発している。
何がしたいんだ、この人は。
しかし、日向からはなんの反応もない。どうやら、遊ぶ気は失せたようだ。いまはただただ、好機を待つ狩人のように、じっと、ノルダルート王太子を見つめている。
その目線を感じたのか、ノルダルート王太子は、日向を見て、気まずそうに笑った。
「もちろん、ただでとは言わない。まずは、自己紹介するよ。
顔を上げてくれたまえ」
全身をこちらに向け、一礼する。
「私の名は、エールリヒ・ノルダン・シュヴェールト。最北の国[ノルダルート]の、次期国王だ。
入学理由は、【部分喪失】。一般的な言い方をすると、極端に、物忘れが激しいんだ」
そういうことか。
おれはやっと理解した。
それなら、たしかに、『欠陥品』だ。
16 >>99
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.99 )
- 日時: 2021/05/01 07:38
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: yV4epvKO)
16
「私の名前は、エリーゼ・ルジアーダです。[エンディナーメモス]のリィカ・ルジアーダ伯爵の、一人娘です。
入学理由は、【魔法満干】。魔法発動に使う魔力に波があり、安定して魔法を使うことができません」
この流れは、おれたちも自己紹介をするものだ。
おれは三人を見回し、意志疎通を図った。
自己紹介くらいなら、大丈夫だ。
下手に拒否をすると、あとあと面倒になりかねない。
小さく頷き、口火を切った。
「笹木野 龍馬です。吸血鬼五大勢力の一つ、カツェランフォート家の当主の孫です。
人間と吸血鬼の半怪人で、〔邪神の子〕と呼ばれています。
入学理由は」
言葉を濁すな。耐えろ。
耐えろ。
「【二重人格】、人格異常です。学園へは、自主希望で入学しました」
二人の顔色が変わった。
「自主希望なんて、珍しいですね」
ルジアーダ嬢はそういうけれど、本当は、おどろいているのは、そこではないはずだ。
二重人格など、そうはいないし、いたとしても、良い印象は持たないだろう。
「東 蘭です」
おれに気を遣ったのか、蘭が言った。失礼に当たるかもしれないにも関わらず。
意外と気が利くんだよな、こいつ。
「天陽族の、呪解師の生まれです。
入学理由は、【不適合】。おれは呪いを『解く』よりも、『壊す』の方が性に合ってるので」
なるほどな。おれも、正直に言うんじゃなかったぜ。適当に【才能過多】とでも言えば良かったかな。一応、それも入学理由の一つだし。
「でも、一族きっての〔才児〕と呼ばれているんでしょう?」
「昔の話です。幼い頃は、力さえあれば評価されていましたから。いまは、力に加えて、丁寧さや、精密さなどが求められてきていて、どうも、おれには合わないんですよ」
本当はなんとも思っていないくせに、さも気にしている風に、やや自虐ぎみに話す。そのお陰で、庇うように、という格好で、すぐにスナタに話し役が回された。
17 >>100
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.100 )
- 日時: 2021/05/01 07:39
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: yV4epvKO)
17
「スナタです。名字は[ナームンフォンギ]の生まれなので、ありません。入学理由は、【意識跳失】、二重人格にちょっとにています。全然違いますけど、そう言われています。えっと、自分の感情が、たまに、自分ではおさえにくくなるんです」
おれたちのなかでは、スナタが一番『まとも』だ。
けど、な。
おれは日向をちらっと見て、日向にしか気づかれない(日向に気づかれないようにすることは、始めから諦めている)ように、ため息混じりに小さく笑った。
次は、日向だ。
気持ちを切り替えて、身構える。
現段階においてでも、日向はとても複雑な事情を抱えている。
言葉にする情報も少ないし、質問責めに遭うのは、致し方ないことで、容易に想像できること。
何があっても、守る。
おれたちの『領域』に、足を踏み込ませはしない。
「花園、日向、です」
日向は話し出した。
声は、震えていない。動揺も感じない。
熱の無い、落ち着いた、冷めた口調。
「在籍理由は、精神異常」
それだけ言って、口を閉じた。
もちろん、それで納得するわけがない。
「ええっと、具体的に教えてもらえたりは……」
言葉を濁す。
日向が嫌いな話し方だ。日向は、はっきりと話す方が好きなのだ。だからおれも、意識している。と言うよりかは、意識している期間が長すぎて、これが普通の口調になってしまった。
日向は、沈黙した。
「出来ない、か。
どうしても?」
沈黙を貫く。
だめだ。
日向の精神が、異常の警鐘を鳴らしている。
わかる。おれたちにはわかる。
表情ではない、漏れ出る微かな『気』。
「在籍理由、と言いましたね? 入学理由は?」
「なんで知りたいんですか」
ルジアーダ嬢の質問と被さるタイミングで、日向は言った。
「知って、どうするんですか」
疑問の音の無い、疑問に見える、拒絶の言葉。
日向はそこで、言葉を切った。
まずいな。相手は小国とはいえ次期国王。
敵に回すのは、日向の意志に、『面倒から避けたい』という意志に、反する。
その考えにまで至っていないはずがない。
限界だ。
・・・・
「生徒会長」
おれは、言葉を発した。
ノルダルート王太子にではなく、バケガクの生徒会長に。
「言葉を挟んでしまい、申し訳ありません」
まずは、不敬を謝罪する。
「彼女は、他者からの干渉を嫌います。
生徒会長として、生徒のことを気遣ってのこの行動であれば、彼女へは、逆効果にもなり得ます。
生徒会長のお心遣いは、とてもありがたいです。それには、感謝の言葉を並べさせてください」
おれは一度、腰を折った。
「ですが、私は、彼女の友人として、願います。どうか、過度な干渉は、控えてください」
あまり、家の権力は使いたくない。
勤めて丁寧に、おれは言った。
だけど、この人たちが、言葉をつまらせたから。
この場で、この人たちに対して、もの申す権利を有しているのは、おれだけだから。
「権力を、盾にしないでください。
日向のそばには、おれがいます。
大陸フィフスには、現在王も皇帝もいません。
吸血鬼内で五大勢力とも言われるおれの家系は、大陸内では王族や貴族と同じくらいの権力があります。
そのことを、決してお忘れなきよう」
強い口調で、突き放した。
矛盾だらけのおれの言葉は、かなり、二人に蕀のごとく、刺さったようだった。
18 >>101
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.101 )
- 日時: 2021/04/28 06:26
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: iTHoKTwe)
18
「日向、ごめんな」
二人が日向に謝罪し、学園長に断りをいれて退室した直後に、おれは言った。
なんのことかわからずに、日向は不思議そうに首を傾ける。
「『友人』なんて勝手に言ってさ」
日向は、じぃっとおれの目を見る。
気にしてないよ。
そう伝えたいようだった。
「は? 君たち、友人じゃないのか?」
驚きの中に呆れの混じった声で、学園長が言った。
「じゃあ、君たちの関係はなんだ? まさか色恋ではないだろう?」
「当然」
おれの頬が紅潮するよりも先に、日向が言った。
「三人は、私を救ってくれるの。だから私は三人を守るの。利害関係」
少なくとも、日向はそう思っているようだった。
「君のその盲目的な『信仰』にも、私としては不思議でならないんだけどね」
学園長は苦笑した。
「用事は?」
終わったのか、と、訊きたいのだろう。
「ああ、もう大丈夫だ。帰ってくれて構わない」
「あ、待って、日向! ジョーカーのこと、言わなくて良いの?」
踵を返した日向の背に、スナタが投げ掛けた。
「いい」
その足を止めること無く、日向は言う。
ジョーカー。
それは、誰なんだ?
学園長まで、知っているのか。
あの口ぶりからして、『組織』の一員。
あるいは……。
日向は、未だに、その正体を明かしてはくれない。
たぶん、それは、日向の口から伝えられるのを、待つべきなんだと思う。
でも。
なあ、日向。
おれは、さみしいよ。
悲しいんじゃない。少し、ニュアンスが異なる。
日向にとって、おれが蘭やスナタと違うのは、知ってる。
でも。
なあ、日向。
いつか、いつか。
おれに心を、開いてくれるか?
第一幕【完】