ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.88 )
- 日時: 2021/10/03 19:13
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: OypUyKao)
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「ふわーあ、じゃああたしは寝るから、あんまりうるさくしないでよ」
華弥姉が大きくあくびをした。
「棺桶にでも入ってりゃ良いじゃねえか。そのためのもんだろ?」
明虎が言った。その通りだ。おれも何度も頷き、同意を示す。
「寝心地が悪いのよ。ただでさえ最近まともに食事してないんだから、のびのびと寝るくらいさせてよね」
「華弥さんは、睡眠が深い方ですから、よほどのことでない限り起きないのではないですか?」
おれはルアの言葉にも、同じように同意を示した。
ごんっ
「いって!」
突然、頭に衝撃が走った。
「なんでぶつんだよ!」
「お姉さまに向かって失礼でしょう!!」
「なんでおれだけ?!」
それと、お姉さまってなんだよ!
「もう、華弥ねぇ! 早く寝ろよ!」
明虎が、華弥姉をぐいぐいと押しやり、部屋の外へ追い出した。ナイス!
「ええっ! ちょっとぉ」
ばたん!
「明虎、ナイスファインプレー!」
「へへっ」
明虎は、得意気に人差し指で鼻の下をこする。
「じゃあ龍にぃ! 何からする?」
おれは少し考えた。
「ステータスを見せるのを最初にするよ。一番手間が少ないしな。ちょっと待ってろよ。
ステータス・オープン」
ふおんっ
淡い青の光が、部屋全体に行き渡る。
大量の文字の羅列の中から、おれは操作用のボタンを探しだし、情報を一部、非表示にする。
ふと視線をそらすと、明虎とルアが、そわそわした様子で、おれの手元を見ていた。
無意識に、笑みがこぼれる。
ステータスは、スキル【鑑定】を使うか、特定のアイテムを使うかしない限り、本人の同意なく、見ることは出来ない。二人の目には、青みがかった白い横長の長方形の無地の画面しか写っていないはずだ。にもかかわらず、この状況。
『こいつら、ばかかよ』
黙れ。
「良し、出来たぞ。
ステータス・オープン・リリース」
ぶうんと音がして、一瞬、画面が光る。
「どうだ、見れたか?」
「うん!」
「はい!」
二人に見えているステータスは、こうだ。
『【名前】
笹木野 龍馬
【種族】
ハーフ〈ヴァンパイア/人間〉
【職業】
・魔術師 level358
・剣士 level179……
【使用可能魔法】
・水属性
└水魔法
├攻撃類
│└水矢……
└応用類
└害物排除……
・闇属性
└拘束類
└ブラックホール……
【スキル】
・空間同化 level23……
【称号】
・世界に優遇されし者
・邪神の子……』
「すげえ! すげえ! すげえ!」
「それしか言えませんの?」
ルアはあきれた口調で言う、が、ルアも興奮しているらしく、その目のきらめきのせいで、あまり効果はなかった。
「お兄様、さすがですわね! 職業のレベルが全て三桁を越えていらっしゃいますわ!
それに、スキルも! いくつか30に迫っているものもありますし、さらには越えているものまでありますわ!」
「使える魔法もめっちゃ多いし! 技見せてもらえないのが残念だけど」
明虎がぼそっと言った。
「ごめんな」
明虎が言う技とは、例えば剣技などの、魔法を使わない(使うものもある)技のことだ。おれは技を修得しすぎていて、ステータスに表示するとややこしいので、非表示にしている。
「ほお、これはすごいな」
後ろから声がした。全員気配を感じ取っていたので、特に驚くこともなく、振り向く。
「父さん、起きたのか」
「父ちゃん! 見ろよ! すごいだろ!」
「辰人さん、おはようございます」
全員が口々言ったことで、父さんは少し困惑しながらも、穏やかな笑みを浮かべた。浅葱色の瞳に、優しい光が灯る。
「おはよう、皆。朝から元気だね。そういえば、ルアちゃんは寝てなくていいのかい?」
「言われてみれば、そうだな。ルア、どうしてこんな時間から起きてるんだ?」
吸血鬼は、夜行性。ルアはおれと違い、正真正銘の吸血鬼。おれたちが住んでいるこの屋敷は、大陸フィフスにある。大陸フィフスは年中特殊な雲(諸説ある)に覆われ、太陽の光が届かない。故に、昼間に起きていても何ら問題はないのだが、生物は、摂理にはどうしても逆らえない節がある。だからこそ、華弥姉は眠りに行ったのだ。
「お兄様にお会いしたかったものですから。
普段からわたくしとお兄様は生活リズムが合わず、当然ながら、あまり会うことが出来ません。ですが、疲労したお兄様がお帰りになったと聞いて、きっとぐっすりお眠りになるのだと思って、起床時間と就寝時間を調節し、お目覚めになるのをお待ちしていたのですわ」
これには苦笑せざるを得なかった。なんとも、正確に行動を予測されている。
いまルアが言った通り、おれは普段、一般の人間と同じような生活をしている。一日おきに目覚め、寝て、また翌日に目覚め、寝て。
しかし、おれに吸血鬼の血が流れているのは事実。吸血鬼は、一度眠ると、少なくとも一ヶ月は眠ったきりになる。そこまで疲れがたまることはほとんど無いが、おれは疲れていた。ありがたいことに、バケガクも《サバイバル》後は二週間ほど生徒に休みを与えている。理由は、おれのような生活リズムの感覚が人間よりも遅い種族の生徒の休息ためと、教師たちの後片付け。
「わたくしも、今朝起きたばかりですのよ。真弥さんに、この日に起こすようお願いしていましたの。お兄様はだいたい一週間ほどでお目覚めになられますから」
「なあ、ルア。おれって、そんなに行動に変化ないのか?」
ルアの目が泳ぐ。
これはある種仕方の無いことなのだ。なんせ、
『面白味の無いやつってことだな、はっはっは!』
こいつが! いちいち! おれの行動に文句をつけるから!
今朝だって起こされたし!
「ルアは本当に龍馬が好きなんだね」
「それはもう。お慕いしておりますわ」
そう言ってルアは、おれにもたれかかる。
「おっおれだって龍にぃのことすきだぞ!?」
負けじと明虎もおれに抱きつ、いや、しがみついた。
父さんは目をほそめ、微笑んだ。
「それじゃ、私は朝食をとってくるよ。邪魔みたいだからね」
父さんは、穏やかな笑みに少し寂しさを混ぜて、首に手を当てた。成人男性にしては珍しい水色の長髪が、ふわりと手に当たる。
「邪魔って、そんなこと」
おれの言葉を、二人が遮った。
「じゃーね父ちゃん!」
「ごきげんよう」
「否定しようぜ?!」
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