ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.90 )
日時: 2021/04/25 08:46
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AUvINDIS)

 7

「うー」
 おれはベッドでごろごろしていた。

 暇だ。

 おれには趣味なんてものはないし、ルアは本来の生活に戻って眠っているし、明虎は昨日教えた魔法を使うために、森へ魔物狩りへ出掛けた。真弥姉も、それについていった。
 父さんや兄貴たちは仕事で、母さんも華弥姉も、爺ちゃんや他の皆も、二ヶ月は起きてこないだろう。
 だからなんだろう。こんなことは、今しか言えない。

「あああああ、ひなたあああ!」

「龍馬様」
「うわあっ?!」
 扉の向こうから、声がした。この声は、メイドのツェマだ。
 聞かれたか? 聞かれたか?
「何の用だ?」
 うん、何事もなかったことにしよう。いや、何もなかった。そうだ。声がひっくり返っていることは気にするな。
「お休み中に申し訳ありません。つい先程、学園より、呼び出しの旨を伝える手紙が届きました」
 学園から?
「入れ」
「失礼いたします」
 ツェマは最小限の音だけ立てて、おれの部屋に入った。
 黒よりも青に近い、藍色のボブヘアーは、まったく動かない。洗練された動きだ。
 扉を閉める。いつも思うが、おれの部屋の扉は、おれの体力に合わせてあるので、なかなかに重いはずだ。ツェマは確かに力を込めて閉めているようだが、それでも、不自然な動き、とまではいかない。女性の中でも小柄なはずなのに、どんな鍛え方をしているのだろうか。
 まあ、〔邪神の子〕が幼い頃から、面倒を任されている者からすれば、当然と言えば当然なんだろうけど。
 おれを、切れ長の黒い瞳が見る。
 表情は少なく、ただ落ち着いた様子で、おれの近くに寄り、手紙を渡した。
 おれはざっと目を通した。
「学園長からか。何のよ、う」
 おれの口が、無意識に止まった。文面には、いつものメンバー、つまり、日向、蘭、スナタも呼び出しにあっていると、書いてあった。
「手紙の中身を拝見させていただきました。書いている通り、花園様もおよび出しにかかっているそうです。」
 うわー! 絶対笑ってる! 絶対笑ってる! 表情は動いてないけど、声が震えてるぞ!
「では、失礼します」
 声の出せないおれを知ってか知らずが、ツェマはおれの返事を聞かずに、細い腰を折って、去っていった。

 8 >>91