ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.91 )
- 日時: 2022/04/19 19:14
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: IfRkr8gZ)
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おれはあと、二、三回転がると、ベッドから飛び上がるようにして、床に立った。
いそいそと壁に掛けてある制服のところまで行き、ハンガーから外す。
他の服は別の専用の部屋にしまってあるが、制服はいちいち取りに行かせるのは面倒だからと、部屋に置いてある。
シャツとズボンを着替えて、緑色のネクタイを締めるために、鏡の前まで行く。締め方はもう、体に染み付いているが、念のため、というやつだ。
ベッドのすぐ近くにある、姿見の前に立つ。
水色、と言っても、水よりかは空の色のような髪と目。髪質は結構ストレートで、他の男子と比べるとちょっと長いけど、髪が絡まったことは覚えがない。体はかなり鍛えてあるはずだが、体質なのか、目に見えた筋肉質、というわけはない。ただ、華弥姉にがっしりしていると言われたことがある。容姿は、吸血鬼の血を引いていることもあって、一般に言われる『美形』の類いに入る、らしい。それ故か、そこそこもてる。別に、嬉しいとか、そういった感情はないけど。本音で。
誰に向かって言い訳しているんだと苦笑しつつ、おれは目線を、鏡に戻した。
思わず、顔をしかめる。
右目が、少し、黒くなっている。
本当に、少しだ。ツェマの髪よりも、青に限りなく近い。けれど、確実に、黒くなっている。
少しずつ、少しずつ、おれの魂は、あいつに侵食されつつある。その証拠が、これだ。
いつかおれがおれでは無くなってしまうのかもしれない。たぶん前例がないことだろうから、どうなるのかはわからない。
だから、恐怖。未知のものへの、恐れ。
書物は大量に漁ったし、日向も協力してくれている。しかし、前例なんてあるはずもない。解決の糸口すら、おれは見つけられたことがなかった。
いや、いまはやめよう。おれ一人がぐだくだと悩んだところで、何の価値もない。
意味が、無い。
ネクタイを素早く締めて、部屋を出る。
迷路のような屋敷の廊下を歩いて、玄関、にしては広すぎる場所に出ると、ツェマがいた。
「お靴とほうきをどうぞ」
「ありがとう」
さっきのことがなかったように、いつものやり取りを終えて、おれは扉を潜り、門を出た。
ほうきにまたがり、飛ぶよう念じて、空へ。
学園へと、向かった。
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